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パズルゲーム感想アーカイブ

顧みぬ時の流れのノスタルジア “Evergrow”

時を後戻りすることはできなくても、やり直すことは何度だってできる。

一度走り出すと行き止まりに突き当たるまで止まらないウサギを操作して、盤面上の全てのノーマルマスを通り過ぎるパズル。
このパズルは滑る床のパズルと一筆書きパズルの合いの子といったところである。望むような一筆書きを達成するためには逆算して行き止まりを用意しなければならないという点で、前者の方が強いだろうか。

開始地点を自由に選べることがこのパズルの難しさの源泉である。
始点が自由であるということは終点も定まらず、ゆえにルートも決めようがないということで、一部始終支柱なき思考が余儀なくされる。
盤面が狭いうちですらうっかり詰まってしまうほどなのに、このパズルは盤面のサイズを大きくすることで難易度を上げるスタイルをとっているため、全50問という問題数の少なさに反して大いに悩まされることとなる。
安易に行き止まりから逆になぞるだけで解けるほどこのパズルは甘くはない。

だが、難しさの原因は概ね始点をどこにするかが決まらないことにあるので、始点がここしかないと確信してしまえば後はさほど難しくない。一方通行の一筆ということで普通の一筆に比べて自由が制限される分、ルートの選択肢は始点の選択肢に比べるとはるかに少ないので、最悪始点の総当たりでも解けてしまう。
他にも、強制移動ギミックが導入されている問題は矢印の向きが綺麗に揃う想定でレベルデザインが組まれているため、矢印の向きからルートを考えるメタ推理もできてしまう。揃わずとも矢印の向く先を行き止まりにしてしまえば方向転換ポイントとして悪用することもできるため、実際の難易度は想定よりも若干落ちているだろう。

ちなみに、この作品は盤面の広さに反してアンドゥは実装されていないが、そもそも始点の位置取りを間違えてしまえば解けないため、ウサギの移動が遅いことへのストレスはあれど、アンドゥ未実装に対するストレスは感じなかった。
とはいえ、実装しないことを人生になぞらえ言葉で説明してしまったことに対しては少し言い訳がましさを感じてしまった。仮にそれを言うのなら、やり直しはいくらでもできることもどこかで述べるべきだった。
前にしか進まないウサギの望む未来は後ろ向きのノスタルジーが見せた幻ではないにせよ、何度もやり直した末に手に入れるものなのだから、その努力に報いる言葉を残してもよかったんじゃないだろうか?