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パズルゲーム感想アーカイブ

(株) ホモ・サピエンス “Homo Machina”

思考はぎこちなくとも、身体は正直である。

トレーラーが限定公開なのが気がかりだが、公式サイトで公開しているので共有可と判断してここでも紹介させてもらう。
一人の人間の身体を一つの企業に見立て、各部位の働きを各部署の職務としてゲームに昇華した作品である。

大企業たる人体の業務内容は部署一つとっても多岐に渡り、その一つ一つがミニゲームとなっている。
例えば、眠りから目を覚ますという動作だけでもまぶたを上げる、眼球のピントを合わせる、写した映像を脳に送るなどといった一連の業務をこなさなければならない。
現実の人体の操作方法と同様にマニュアルの類は一切ないので、それぞれの業務で何をすべきかは企業の元ネタである主人公に起きていることと実際の現場の状況を見て、プレイヤーが類推して然るべき器官を操作していくこととなる。

ルールの推測が必要なことから乱暴に謎解きアドベンチャーと言えなくもないが、ルールを隠してもなお簡単でしかも内容は考えるまでもない単純作業なので、この作品は全くもってパズルではない。
さらに言えば、簡単なミニゲームとしての手応えすらもほとんどなかった。せいぜいガジェットを動かして楽しむ面白さがある程度だった。

しかしながら、主人公と企業の活動内容とで物語上のリンクがあるのは面白いと思った。
あまりにも変化のない朝食のメニューに脳を司る社長が飽き飽きな反応を示していたり、怪我で社内に緊急アラームが鳴り響いたり、時計の針と指令が送られる臓器がシンクロしていたりと、ありきたりな人間のありきたりな一日なのに見ていて飽きが来ない。
そして、この物語をより面白くしているのが、企業を、つまり主人公を動かすのにプレイヤーの操作を介入させていることである。
朝目覚めるまでが遅かったり、耳が遠かったり、うっかり漏らしそうになるのも、全てはマヌケのマヌケな操作がもたらしたものだが、それらがそのまま主人公の個性となるのだ。
何をすればいいかが即座にわからないこともあって、マヌケ操る主人公は機能不全を起こしまくった人間だったが、そのボケっぷりたるや、そんなボケにしてしまったマヌケ自身すらも同様にボケたのではないかと錯覚するほどだった。

ただ、あのストーリーの短さには流石に物足りなさを感じずにはいられない。プレイヤー操作によって獲得する個性と面白さがあるのに、語るストーリーが少ないのは寂しい。
内線は繋がっているのに終ぞ取り上げられなかった部署の存在もあり、消化不良であることは否めない。

マヌケの操作によって鈍重な動きになってしまったが、本来ならばこれらの作業は身体の中で一瞬のうちに完遂される事柄である。
人間の身体は考える必要もなく機敏に動く。当たり前の事実だが、改めて考えてみると不思議である。