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パズルゲーム感想アーカイブ

埃にまみれた古城 “The Eyes of Ara”

そこは科学と魔術が同居する謎の空間。だがそこでやることはひたすらに泥臭い探索ばかりである。

時は2017年、謎の怪電波についての調査依頼が舞い込んだ。半径100kmという広範囲に通信障害をもたらしているその電波の発信元は、不気味な噂に満ちたとある古城だった。
この作品はそんな古城を舞台としたポイント&クリックである。

ちなみに半径100km圏内のスケールだが、例として東京を中心に考えると西は静岡東部、北は北関東3県の南部、東は千葉のほぼ全域に相当する。城とはいえ廃墟同然の場所がスカイツリーを上回る広域にその怪電波を届けているのだと書くと、起こっていることの異常性が際立って見えるだろう。単に何も考えずに設定しただけかもしれないが。

古城を見上げながらボートを走らせるOPムービーには心躍るが、このゲームの内容に動的な要素は一切なく、ポイント&クリックとして古典的な内容である。
ただし、このゲームの場所ごとの探索システムは視点固定で平らな1枚絵を調べるスタイルではなく、視点を自由に変えることができるスタイルを採用している。球形に閉じた絵を見渡して詳しく調べる場所を指定していくタイプとも言えるだろうか。
古城は細部まで作り込まれていて、謎は天井や床、壁の隅に至るまであまねく散らばっている。

だが、その作り込みは謎解きゲームとしての洗練ではなかった。
この古城は手掛かりを暗に指し示す背景のヒントが一切ないばかりでなく、オブジェクトや情報など悪質な隠され方をしたものが多い。周りのオブジェクトと同化した箱や瓦礫の裏に隠れたレバーなどはまだマシなほうで、棚の裏やクローゼットの上など、普通ならば調べられると思わないような場所にすら平然と情報を置いていたりする。
謎解き自体は必要な情報を全て集めていれば素直に解けるものが多く、理屈に納得のいかない思いをすることはないのだが、探索が完璧に終わることがほとんどなかったせいで、情報不足のまま謎解きしようとしてかなりの時間を無駄にさせられてしまった。
しかも、せっかく解けた謎も出てきたものはただのおまけで、実はまだ探索漏れがあるのだと絶望させられることも少なくなかった。集めた情報は全てクリアに必須というわけではなく、ただの収集要素を解放させるだけのものも多い。
探索を楽にするオプションもいくつかあるが、肝心のズームイン可能な場所を指し示す機能は存在しないのであってもなくても同じである。

結果的に、このゲームのアプローチはとにかくあちこちをひたすら叩きまくるという総当たりに近いもので、そこにはパズルとしての面白みはおろか、ポイント&クリックとしての面白みすらもなかった。
調べたい場所をクリックすると場所に応じた音が鳴ると同時にその場所に埃が舞うため、まるでハタキを持って城中はたいてまわっているかのような気分だった。