笑顔の絶えないホールスタッフ “Donut County”
穴があったら動かしたい。穴があったら落としたい。
地面に開けられた穴を操作し、そこにあるものをひたすら落としていくゲーム。
実はマヌケ、タイトルで思いっきり誤読をかましてしまっていたのだが、“country (国)” ではなく “county (郡)” である。
主人公はアライグマのBK。彼は地面に穴を開ける装置を使い、あらゆる場所へと「ドーナツ」を「配達」するアルバイトをしている。プレイヤーは配達先のドーナツ、もといBKが遠隔操作する穴となり、彼のアルバイトを完了させることが目的となる。
初期状態の穴は小さく、小石や雑草といった細かいものしか落とすことができないが、ものを落とせば落とすほど穴は拡大していき、より大きなものを落とせるようになる。
これだけだとただ大きさ順にものを落とすだけの単純作業だが、それだけで終わるほどこのゲームは単調ではない。ただ落とせるものだけを落としているだけだと一定の大きさで穴の大きさは頭打ちとなってしまうので、クリアするためには一工夫が必要となる。
穴に火を放り込めば落としたものに火がつき移動式の煙突となり、穴に水が流れ込めば落としたものが浮かぶ。穴と落としたもの、地上に残っているものとの関係性を考え、どう組み合わせれば何が起こせるのか、残りのものを落とすのに何をすべきなのかを考えなければならないことなど、このゲームには避けては通れない謎解きの要素がある。
しかしながら、解決すべき事柄が複雑に絡み合うようなことは全くない。謎解きの内容はボケに正しいツッコミを返すような一問一答のミニゲームに近く、しかも揃って簡単な内容である。
ゆえにこのゲームはパズルではない。穴を操作するとはいえどアクションゲームと呼べるほどの操作精度も求められることもないのでアクションでもない。
ではこのゲームを分類するなら何になるのかと言えば、それはシミュレーションだろう。
このゲームの面白さとは穴そのものとなり、そこに存在するありとあらゆるものを次々と飲み込んでいく爽快感にある。飲み込めば飲み込むほど大きくなる穴は破壊願望を満たすのによくマッチしていて、周囲のものを容赦なく飲み込んでいく穴も、そんな穴を前に困惑する配達先の住民の様子も見ていて楽しい。
このゲームはパズルではなかったが、パズルではないがゆえにその爽快感を最大限に味わうことができた。もしも謎解きの難易度がパズルと呼べるほどのものになっていたなら、「ごみ収集の仕事」を前に立ちはだかるデカブツや逃走者といった自身の覇道を妨げるものに対する苛立ちが爽快感を上回ってしまっていただろう。
シュールなのはゲーム内容だけでなく、ストーリーや雰囲気、ゴミにまつわるフレーバーテキストなど、作り込まれた作品世界は隅々まで楽しさで溢れている。
頭の中を空っぽにして、ひたすら穴にものを落としてしまえば心もスッキリである。終始笑いの止まらない楽しいゲームだった。Have a Garbage Day!