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パズルゲーム感想アーカイブ

陰影讃頌 “The Unfinished Swan”

白い暗闇がそこにはある。

亡き母親が遺した未完成の絵から逃げ出した白鳥を追いかけて、絵本の中のような不思議な世界を旅するアドベンチャー。
主人公の少年・Monroeを操作キャラクターとする一人称視点の3Dアクションで、水風船の投擲とジャンプによって先へ進んでいく。高所からの飛び移りが必要だったり、時間制限があったりなどいい加減なアクションで済むほど平易ではないが、ミスしてもやり直しは簡単にできるようになっているし、それ以上に高度な操作を要求されることはない。

旅の舞台はとある王様の治世の記録に基づいたものとなっている。自分の王国にふさわしい色などないからと物語は壁や天井の区別もつかない真っ白な空間から始まり、真っ白な世界は住みにくいと苦情が来たからと世界に影が描かれるようになり、影さす迷宮の国は住民の不満が大きいからと抜け出した先で打ち切りと言わんばかりに早々に打ち捨てられる。
ただし、どんな色の世界の中でも決まって白鳥の黄色い足跡が点々としていて、それが物語のガイドとなっている。

このゲームは影のない世界に通路を溶かして見えなくさせるという形で道を塞いでいる。影のある世界でも次に行くべき場所がわからなくなることもあるがその場合は物陰に隠されていて、総じて影を利用して順路を隠すというやり方であることに変わりはない。
限られた手を組み合わせて道を切り拓くことは一切ないので、このゲームは全くもってパズルではない。
視認性の悪いハイコントラストの世界は酔いやすく、アクションの操作性はいいとは言えず所々でストレスが溜まり、さらに収集要素となる風船の隠し場所はノーヒントだと悪質なかくれんぼと、パズルの奴隷たるマヌケにとっては何の面白みもないゲームだった。

しかしながら、アドベンチャーとしての表現は目を見張るものがあり、中でも真っ白な世界に初めて影が、色が付いた時の感動はそれだけでもプレイした価値があると言えるほど素晴らしかった。
プロトタイプの内容を見るに、単色の世界に反対の色を塗ることで構造を把握させるという遊びはあらゆるジャンルに分化する可能性があっただろう。ホースやスナイパーライフルなどにその片鱗を見ることができる。
結果的に、アドベンチャーに着地したことでゲームとしての複雑さは失われてしまっていたが、代わりに影の素晴らしさを物語るには十分な内容になっていた。それ自体のインパクトが強すぎて他が弱まってしまっていた事実は否定できないが、物語の興味を引く導入としては最高の内容だった。

本来あって当たり前のはずのものがないがゆえの心許なさは自らが陥るとより深刻に感じられる。つまらないゲームではあったが、同時にこれはゲームでなければ味わえなかったことだろう。