奴隷が奴隷を使う奴隷のためのタスク “7 Billion Humans”
使われる奴隷から奴隷を使う奴隷への転身。
ようこそ管理職の世界へ。
Human Resource Machineに続くTomorrow Corporation製プログラミングパズルの第2作。
基本的な書式や構文が同じなので一見そうとは見えないが、パズルの内容は前作とは全くの別物である。
前作はある空間内にいる一人の人間を動かすためのソースコードを書くものだったが、今作では同じ空間の中にいる複数の人間、つまり集団を操るためのソースコードを書くこととなる。
同じソースコードで複数の人間が同時に動かせるようにはなったが、それはつまり社員同士で干渉し合うようになったということでもある。社員間でデータの受け渡しをしようとしても、渡す側に準備がなければ命令は実行されないまま受け流され、受け取る側も受け取れないままなすすべなく立ち尽くしてしまう。前が詰まれば後も詰まるので、詰まった場合も考えてコードを書く必要がある。
コマンドを最小限まで制限された前作とは打って変わって、今作では四則演算も簡単にできるようになったし条件分岐も細かく指定を入れられるようになって表現の幅は広がったが、社員を区別するためのわかりやすいコマンドや構文は用意されていない。
前作が制限されたコマンドで複雑な表現をするパズルであったように、今作は制限された構文で複数の社員を制御するパズルとなっている。問題文をどうプログラムに落とし込むかの解釈が簡単になった代わりに、それを実現するために具体的にどのようなコードを書くべきかの実践が難しくなったと言える。
前作とは違った指向のパズルとなった今作だが、歯応えこそあれど、前作から一転して泥臭くなってしまったように感じた。
今作では行動を乱数に委ねることが可能になっていて、社員数の暴力を利用した探索も可能ではあるのだが、それは100%の成功を保証するものではなく、時間をかけ過ぎれば上司からNG判定が下される。そのくせ問題自体はクリア扱いになるし、効率化目標もそれで通ってしまう。
効率化目標が美しい解答からかけ離れてしまうという問題は前作でもスピード部門で顕著だったが、今作では行数部門でもその乖離が起こりうる。
複数の社員を綺麗に制御するコードとただ行数が少ないだけのコード、とにかく早く終わるコードはそれぞれで全く違ったものとなる。
さらに、できるだけ綺麗なコードを書こうとしてもどうしてもスパゲティコードが出来上がってしまうという欠点は前作同様で、しかも今作は最小でも数十行を要する問題が多い。
限られた構文では社員の制御で条件分岐に頼らざるを得ないため、前作以上に複雑になりやすいという性質もある。
難易度が上がったのは間違いないが、それ以上に労働環境に改善がなかったため、労働そのものが億劫になりやすくなってしまっているように感じられた。
パズルの奴隷は指向も問題の傾向も前作の方がエレガントで好みだったため、今作はあまり響かなかった。
とはいえ、パズルには関係のないことではあるが、会社の経営方針は今作の方が好みである。
無限の資源、無限の資産、無限の食糧……ニンゲンの解決すべき問題は全て解決したのに、なぜニンゲンはそれでも労働を求めたのか?問題を解決した機械は本来必要のない仕事をなぜ作ったのか?
その答えは、今もなおパズルの奴隷たるマヌケの原動力として燃え続けている。