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パズルゲーム感想アーカイブ

トラシング・ライフ・フォーム “World of Goo”

I wanted to be a medium winner.
—the Slave of Puzzle

粘菌のような謎の生き物、Gooを組み上げてゴールまでの道を作る物理演算パズル。
Gooは自身の持つ結合法則によりトラス構造を軸にした強固な結びつきをしていくが、Goo自身に剛性はないので出来上がった構造物は跳ねるような弾性を持つ。この性質に基づくくにゃくにゃした挙動が特徴的なパズルである。

Gooには勝手気ままに移動し続ける単体と、活性を失っている代わりに単体のGooの通り道を形成する群体の2種類の状態が存在している。群体は単体を結合に使うことで拡大することができるので、どの問題でも初期状態の小さな群体を起点として組み上げていくことになるが、クリア条件は単体のGooを指定の数以上ゴールまで辿り着かせることなので、いたずらな補強ができるわけではない。
Gooは資材であると同時にクリア条件としてトレードオフになっているので、どう組むかだけでなくリソース配分にも気を遣わなければならない。Gooの使用数を抑えれば通り道は不安定に、使い込めば堅牢になるがクリアラインに届かなくなってしまう。

このパズルは単体の移動と群体の構築とが同時に進行するため、Gooの単体および群体の特性も相まって、見た目通りに大胆で、そして見た目以上に繊細な物理演算パズルとなっている。
群体のGooはトゲに触れない限りちぎれない無敵の結合を持つが、その弾性ゆえに寝かせれば大きくたわみ、立てれば大きく揺れる。さらに群体中を這う単体のGooにもまた重量があるため、寄ればその分重心が変わってまた変形してしまう。
ゴールに届くとパイプに引力がかかるようになるので、倒れる前に急いで組み上げてしまったり、あるいはあえてトゲにぶつけて結合を切ることで群体をフリーにしたりなど、神経質にゆっくり解くよりもアクティブに解くほうが楽なケースもある。
設計を行う物理演算パズルでありながら、絶え間なく動き続けるGooによって変化し続ける状況の中、静と動をアクティブに見極めながら試行錯誤していくというのは新鮮な体験だった。

しかしながら、このパズルは通常クリアを目指すには生温く、挑戦課題を目指すには難しすぎるという両極端な難易度で、面白さよりも疲労感が勝ってしまった。
このパズルの挑戦課題はOCD (Obsessive Completion Distinction) と、強迫性障害 (Obsessive–compulsive disorder) を想起させる基準名を冠するだけあって、そのハードルの高さは並大抵のものではない。
中にはとんちを利かせたような解き方や、仕様の正確な理解を求める問題として成立している問題もあるのだが、そういう解き方もあるのかと気づかせるためならばChapter 2 “Leap Hole” のように問題として用意すればいいのであって、基準を導線とする必要はなかったはずだ。
送還したGooの数はスコアとして記録されるので、わざわざ挑戦課題を設けなくともよかったのではないだろうか?個人的な感覚では通常ノルマとOCDラインの中間がクリア条件としてちょうどいい具合だったように思う。

OCDクリアで必要以上に疲れてしまったのは単なるハードルの高さだけでなく、操作性の悪さやシステムの不備なども影響している。
Gooは完全ランダムではなく群体の安定をとるべく動いていると思われるが、そのため密集地帯では選別のしにくさが欠点となってしまう。群体から外せる緑のGooは群体の優先度が単体より低いためか掴みにくい、多種多様なGooがひしめく問題では目当てのGooを掴みにくいなど、通常のプレイならば少々の不便で終わるところだが、OCDクリアを目指したプレイではアクティブな対応が求められるため致命的な操作の遅れに繋がってしまう。
せめてGooを誘導する笛が追い出す笛だったならば前者の掴みにくさは解消されただろうに。
システムの不備だが、通常クリア達成後の制限が挙げられる。このパズルにも一応アンドゥは存在するが、リアルタイムに状況が変化するためか、使用できるタイミングと回数に制限が付いていて大幅に巻き戻すことができない。制限付きでもあればやはり便利なもので、通常クリアを目指す場合でもあるのとないのとではテンポが全く変わってくるのだが、一旦ノルマに到達してしまうとアンドゥが完全に使用不可となってしまう。ノルマに到達するとさらにリザルト画面に進むための紐が右側を占拠するようになり、視界の邪魔になると同時に誤操作の元となる。
目当てのGooが掴めず何度ジャグリングをしただろうか?クリアの紐に何度邪魔されただろうか?あと1匹が足りなくて何度溜息をついただろうか?確かにマヌケの矜持は半ば強迫的であることを自覚しているが、ゲーム側が強迫的にならざるを得ない環境を作ってどうする?

弾性と粘度があるアクティブな物理演算パズルという土台は面白かったが、OCDクリアまで目指した結果そこで求められた繊細さによって、結局は苛立ちのほうが大きく上回ってしまった。
難易度調整はレベルデザインとは違うのだが、適切な難易度の設定というのもまた難しいデザインの一つなのだと考えさせられる。
疲れきったマヌケにTower of Gooを組む気力はもう残っていない。

関連項目

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