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パズルゲーム感想アーカイブ

過労の死神と労基の天使 “Death Coming”

死んでも魂が奴隷労働から自由になることは決してない。輪を乱すことなかれ。

気づけば死んでしまっていた。そんな主人公の元に死神が現れ「仕事を手伝えば生き返らせてやろう」と取引を持ちかけてきた。自分はなぜ死んだのか、自分は何者なのかさっぱり覚えていない主人公に、死神の鎌を取らない選択肢はなかった。
このゲームは、刻一刻と忙しなく変化し続ける環境の中、死神の力を使いながら人間を殺害していくリアルタイムストラテジーである。

とはいえ、死神は人間を直接殺せるわけではない。いかにも死神らしい鎌を携えるが殺傷能力はなく、その力が作用するのは専ら無機的な物体である。
死神は不安定な物体をグラつかせることができる。例えば、不安定な高台に置かれた植木鉢を落としたり、固定の甘い看板を倒したり、今にも切れそうな紐を切ることができる。この力を作用させた物体で人間を死の運命に追い込むことで命を刈る。
人間は周りの環境や彼らの生活リズムに従って忙しなく行動しているのでタイミングを合わせる必要がある。タイミングがずれてしまえば死の運命には追い込めないし、一度死神の力を作用させてしまった物体は元に戻すことができない。
安定しているように見えるものでも状況によって不安定になったり、不安定なものでも見張り等によってかろうじて安定を保っているものもあるので力を作用させる順番も重要である。

研修直後にいきなり大きな現場を任せるという大胆なOJTを敢行する死神業だが、作用できる物体の一覧と現場の環境、殺せる人間のプロファイルは一通り教えてもらえるので全くのノーヒントということはない。
クリア条件となる殺害ノルマは易しく、意欲があれば残業と称して現場の人間を全員殺し尽くすまでプレイし続けることもできる。時間を置かずに連続で殺害していくと評定が上がっていくのでスコアアタックも楽しめる。
ちなみに、全ての現場には3人の特別なターゲットが指定されていて、生き返るにはノルマ達成に加えて彼らを全員始末することも条件となる。指名手配される理由もわからなければプロファイルも全く異なる顔ぶれだが、どうやら皆主人公と関わりのある人間たちらしい。彼らと主人公の関係を推理する楽しみもあるかもしれない。

このゲームはリアルタイムに変化する状況に対応していくストラテジーだが、二つの意味でパズルであると言える。魂を刈る仕掛けを作る謎解きゲーム的なパズルと、一定周期ごとに動くNPCのパターンからチャートを作っていくRTS的パズルである。そしてそのどちらもが面白かった。
前者に関してだが、ほとんどの物体は作用すなわち死、実質的には直接ぶつけて殺しているような感覚だが、指名手配のターゲットをはじめとして、殺害に段階的な状況の変化を必要とする人間は少なくない。彼らの殺害には現場の入念な観察と物体や人物の関係性への考察が必要になる。それらは単純な点つなぎではなく、複数の状況の整合に半ばひらめきのような連鎖が求められる。
そして後者に関してだが、一度作用させた物体の再利用ができないルールがうまく利いている。一人のターゲットに対して有効な物体は複数用意されているが、同時に複数人と共有してもいるので、凶器の対応を間違えれば物体が足りなくなってしまう。スコアを稼ごうとなるとさらに大変で、一纏めに殺せるグループを分割で殺したり、あるいは本来想定外の物体の殺害対象に割り込ませたりなどまた別の対応ができあがる。

誰も彼もが死神に運命をねじ曲げられた結果の悲劇的な死のはずだが、なんでもありの無法地帯を生きるどこか抜けた人間たちと、バリエーション豊かな死因のおかげで、抵抗なくサクサク殺せて大量死はいっそ清々しい。死の運命が連鎖していく様は風が吹いて桶屋が儲かる様を目撃しているようで見ていて愉快である。
全員殺害を目指すと流石に神経質にならざるを得ないが、かつて活気があったはずなのに誰もいなくなってしまったゴーストタウンを見ると達成感を得られると同時に感慨深くもなる。

しかしながら、このゲームはやり直しのテンポが悪いという欠点を抱えてしまっている。
開始直後の現場のガイドはスキップできるがそれだけで、指名手配の人間を殺した際の彼らの嘆きや、特定のギミックを発動した際の状況の変化を示す演出などをスキップする機能はない。これらの演出は長いものでは数十秒かかるものもあり、やり直す度にこれらの全てをいちいち見直さなければならない。
全員殺害を目指すとなると何度かのテストプレイが必要になるが、このテンポの阻害がネックとなってただでさえ神経質なプレイがより苛立たしくなってしまう。
やり込みを目指すとこの欠点はさらに深刻になる。このゲームに乱数はなく状況に再現性を持たせることができるが、殺害数が嵩むごとに現れる妨害要素こと天使に再現性はない。ただでさえテンポが悪いのに運すらも関わるようになってくるのだから最悪である。
マヌケはマヌケの矜持に従い自分なりにハイスコアを目指してみたが、やはり燃えるよりもやる気がしぼむ勢いのほうが強く、早々にプレイを切り上げてしまった。コンボとはまた違うボーナスである連続キル (原語: 多杀奖励、英語: AoE) が成立する条件が全くわからなかったためこれを伸ばすことができず中途半端なスコアになってしまったが、これ以上を目指すだけのやる気はもはや残っていない。

いたずらにプレイする分には楽しいが、それ以上を目指すとなると途端に面倒臭くなるという極端なゲームだった。やり込めるほどの土壌があるのに実にもったいない。
天使に恨みをぶつけるミニゲームのほうが面白くなっては元も子もない。

ネタバレ項目: 主人公の死の真相

なぜ主人公は死んだのか。死神の指名手配を受けた人間たちとの関係はどういうものだったのか。その答えを一言で言い表すと「トロッコ問題」である。ポイントを切り替えると死んでしまう一人が主人公であり、切り替えないと死んでしまう大勢がターゲットの人間たちである。
本来ならばポイントが切り替わることはなく、死ぬべき人間たちが運命に従い死ぬはずだった。だが主人公が犠牲をためらうことなくポイントを切り替えたことでその運命が変わってしまったため、死神と化した主人公に彼らを殺させ、そして生き返らせることで運命の帳尻を合わせたというのが真相である。

死神は主人公をただ生き返すだけでなく、粋なことに時をも巻き戻した。全てを思い出した主人公は「ポイントを切り替えるか否か」の選択からもう一度やり直すこととなる。
死神の仕事を経験して、自分の運命と天秤に乗せられた大勢の他者の運命を知ってしまった主人公。彼は一体どうするべきなのか。
ポイントを切り替えるか、否か。
その選択は一度きりのチャンスとしてプレイヤーの手に委ねられる。

マヌケの選択はポイントを切り替えること、つまりかつて主人公が選んだ通りに同じ行動を取ることだった。
死神の力を理解してしまった以上、くだらなく生き残ったところで死神が演出する偶然に怯えずにはいられないだろうし、ならいっそのことこの運命を繰り返す覚悟で死神に再就職すべきだと思ったのだ。

愚かにも生前と同じ選択をしたことに対して死神がどういう反応をするのか楽しみだったのだが、しかしながら期待したエンディングはなく、延々と回り続ける砂時計を眺めるしかないというバグのような結末で、マヌケはただ呆然とするしかなかった。
どうやらストーリーは二度目の選択を迫られた主人公が仰天したところで終わりのようで、それ以降はあなたならどちらを選ぶかというおまけのシステムらしい。本来なら選択後に他のプレイヤーがどちらを選んだかの統計を見ることができるようだ。
どちらを選ぶかの葛藤を窺い知れるならまだしも、結果だけ見せられて面白いのだろうか?おかげで後味が悪くて仕方がない。