単方向ディスコミュニケーション “7 Days to End with You”
起きて、水遣りして、飯食って、寝て、気づけば週末。
この物語は、貴方の干渉と解釈で完成されます
貴方が感じ、受け取った全ての物語は、全て正しいでしょう
これは、たった7日間の短くて長い物語です
知らない言語で話しかけてくる女性の言葉を紐解くテキストアドベンチャー。
主人公の「私」は知らない家のベッドの上で目を覚ますが、そこで「私」は自身が記憶喪失であること、そして介抱してくれたであろう女性の話す言語が全くわからないことを理解する。
絶望的な状況だが、彼女は「私」の混乱を察してか献身的な態度を見せてくれている。彼女の助けを借りれば言葉を理解できるかもしれない。
文法の教材や単語の正しい意味を示す辞書の類はなく、彼女の身振り手振りや表情、会話の流れを考えながら単語の意味を推測していくことになる。
単語は一つ一つ発した会話と共に記憶され、個別に色と意味を設定することができる。女性が喜んだ顔をしながら発した言葉なら明るい言葉かもしれないし、悲しい顔をしながら発した言葉なら暗い言葉かもしれない。
最初は女性が何を伝えたいのかさっぱりだが、彼女の言葉の教え方を理解できるようになると一気に世界が広がる。言葉を正しく理解して彼女の要望に応えることができた時の喜びはひとしおである。
かといってそれだけで全てを簡単に理解できるほど甘くもなく、交流が進んで推測済みの単語が別のシチュエーションで使われるようになれば、単語同士の繋がりがおかしい場面が出てくることもある。そうなればまた正しい意味の推測のし直しである。
何が正しく何が正しくないのか、女性との会話を通した手探りの言語解読は試行錯誤の面白みに満ちている。
しかしながら、言語の解読が終わってしまうとコミュニケーションの幅の狭さが欠点として目立つようになる。
女性と「私」の会話はほとんどの場面で一方的である。数少ない双方向の会話ですらユニークな反応を引き出せる言葉は100を超える単語の中のごくわずかしかない。
例えば、「私の言っていること、わかる?」という問いかけをされた時、反応があるのは「わかる」に該当する単語だけである。言葉が通じないはずの人間にこの問いかけをして、流暢に「わからない」と返されたら驚いてもおかしくはないと思うのだが……。
正しく言葉を理解しても女性とのコミュニケーションは叶わない。挨拶の言葉を覚えても使うことはなく、感謝の意を伝えることすらままならない。
言葉の推測は面白くても、使う場面がなくては面白くない。
言葉を理解しようとするプロセスが楽しいのは間違いないが、これが終わってしまうと数少ない会話の他には料理と植物の世話しかやることがなくなるのは退屈で仕方なかった。
思いを理解できても思いを伝えられないというのは実に歯痒い。
ネタバレ項目:貴方が感じ、受け取った全ての物語は、全て正しいでしょう
露骨な26文字と単語帳の単語の並び、文字の使われ方からして、作中言語はオリジナルの言語ではなく英語を崩したものではないかと早々に目星がついてしまっていたものの、それでもしばらくは知らないふりをしながら進めていた。
わかっていてもなお言語解読は楽しかったのだが、しかしながらコミュニケーションの幅の狭さからくる展開の変わらなさに飽き飽きしてしまって、結局言語解読から暗号解読へと乗り換えることとした。
対応する英単語を照らし合わせたところ推測から大幅にずれた単語が少なくない数あって、そりゃ展開が変わるわけがないと思ったのだが、全ての単語の解読に成功し正しい意味を理解してもなお展開が変わらなかった事実にはがっかりさせられた。
コミュニケーションの手続きは意味の揺らぎに非対応で、一握りの正しい単語を順番に選べなければ一律に会話不成立とみなされるので、全てを理解しても展開を変えるには結局総当たりに頼るしかなかった。これがこのゲームを自称パズルとした理由である。
そして、作中言語が英語で解読可能ということは、揺るぎなき事実として固定される事柄が多く存在するということである。
冒頭の引用文はゲームを始めて最初に語られる説明の一部だが真っ赤な嘘である。
この物語に解釈の余地はまるでなく、言葉すらも全てが明確な意味をもって固定されてしまっている。
マヌケは当初曖昧な意味の単語や選択肢で「私」や女性の設定が変わるという物語を想定していたのだが、そんなことは全くなかった。
固定された事実の数々を鑑みると、タイトルの通りどう終わりを迎えるかを選ぶゲームというのが想定していたゴールのように思えるが、そこに至るまでに破る必要のある壁があまりに厚すぎるので、言語解読のプロセスが必要だったのかは疑問なところである。言語解読に面白さを乗っ取られてそれ以外がつまらなくなっては本末転倒ではないだろうか?
真に終わらせたところでゲームそのものは終わらないので結局のところそれも微妙ではあるが。