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パズルゲーム感想アーカイブ

トレース・オブ・ナイトメア “A Fairy Tale of Lotus”

こんな形で向き合いたくはなかったが、こうでもなければ向き合わないままだっただろう。

A Fairy Tale of Lotus Screenshot

埋め込める形のトレーラーが見つからなかったため画像に差し替え。
1段分の高さを登れる主人公を操作して、足場のある範囲でブロックを押したり引いたりしながら次の足場を作り、高みのゴールを目指すグリッド制2.5Dのパズルである。

このパズルにはユニークな二つのルールが存在する。一つは主人公がブロックの縁を掴んで縁沿いに移動することができるというもの、もう一つはブロックが足場として成立するための条件で、1段下のブロックと辺の接触が0になってしまうと足場としての安定を保てず落下するというものである。
前者は道を塞がれても縁沿いに回り込んだり、途切れた斜め前の足場に縁経由で辿り着いたりすることができるようになり、後者は1辺さえ引っかかっていれば落ちない性質を利用して足場を広げたり、少ないブロックで階段を細く高く伸ばしたりできる。
ブロックを押し引きするパズルということで一見倉庫番ライクな見た目ではあるが、その本質は限られた環境に再帰性を収めるパズルであり、ハノイの塔などに近い。

だがハノイの塔と違い、このパズルは足場の保持で非対称である。また、縁沿いに移動できるというルールはそれだけ足場の猶予を削ることができるということでもある。
このパズルのレベルデザインは余白が容赦なく削られているだけでなく、登るのに邪魔にしかならないブロックをクリティカルな位置に配置している。ただでさえ狭い足場は上に登るほどさらに狭くなり、数少ないブロックを受け渡して足場を確保していく綱渡りが続いていく。先を読んでブロックを動かさなければ、あと1段というところで登るに登れず、降りるに降りられなくなる。
全70問と一見少なく見えるが、猶予なきこのパズルは最序盤を除き最初から最後までずっと難しい。動かしたブロックの数による評価制度まであるからえげつないのだが、終盤にかけてゴールの位置がどんどん高くなっていくので、単にクリアすることすらも厳しくなってくるほどだ。
狭い足場でブロックをやりくりするしかない息苦しさに、一部始終非常にもどかしい思いをすることができる。

しかしながら、ユニークに見えるこのパズルのルールは、実は高難易度パズルアクションとして名高い『キャサリン』のルールそのままなのである。

パズルアクションからアクション要素を抜くにあたって消えたルールや変質したルールはあるだろうが、基本的なルールに関してはもはやパクリと言っていいだろう。

ルールのパクリも酷いが、実はシステムも酷い。
問題に挑戦するのにスタミナ制が導入されていて、リトライやただ問題を開くだけでも1プレイ扱いで消費されるのだが、制限解除の有料オプションはなく30秒の広告視聴のみ、これでたったの4回分である。
幸いアンドゥはあるが手数込みだとアンドゥもカウントされるため役に立たず、最高評価を目指すとなれば基準もわからぬまま試行を重ねることとなる。

パズルの底なしの難しさは確かで、広告を多く見せるべくやり直し回数を稼ぐための手法として難しいゲームを作るのは理に適っているのだが、ルールの創意工夫のなさとシステムのあまりのプライドのなさにこれがオリジナルの難しさと信じることはできない。
だがマヌケはキャサリンをプレイしたことがないので、どこからどこまでがオリジナルなのかを正確に判別することができない。ゴミのような売り方とプレイの強要をするプライドのない奴がオリジナルの良問を作れるわけがないと、マヌケの胸中はそういった疑念でほとんど支配されているが、じっくり解ける小分けのパズルに転化させるべく丁寧にアレンジをしたという可能性を否定できるわけでもない。
マヌケの勝手な憶測だが、キャサリンは盤面が恐ろしく長いようなので、高難易度として噂されるからには再帰までが長いシーケンスを色々と抱えているに違いなく、このパズルはそれらを取り出して組み合わせる形で小分けの問題を作ったのではないかというのがひとまずの予想である。その答え合わせはキャサリンをプレイしなければわからない。
ただ一つわかるのは、このパズルに時間制限が付いたならば難しいの一言では済まないということだ。オリジナリティの有無を問わず、この基本ルールが相当の恐ろしさを抱えていることはマヌケでも理解できる。

余談だが、キャサリンは2019年にリメイク作品『キャサリン・フルボディ』が発売されている。
パズルアクションが難しかったという声がよほど大きかったのか、スキップ可能であることを前面に押し出してパズルの内容を有耶無耶にするという広告の仕方はいっそ清々しいのだが、10年前に噂に聞いた程度でしか知らなかったにもかかわらずルールの一致に思い至れてしまったマヌケとしては、噂だけでも印象に残るだけのインパクトがあるのにそれを隠してしまうというのは勿体ないと思ってしまう。

神経衰弱はできない、反射神経は鈍い、と咄嗟の判断を積み重ねるパズルが苦手なマヌケには時間に追われるパズルはハードルが高くて勇気が出ないのだが、こうなってしまった以上はいつかはやらないといけないだろう。
いくら易化オプションを提示されたところで、制作者が想定した標準があるならば否が応でもマヌケはそれに触れようとしてしまうだろうから意味をなさない。ゆえに相当の覚悟なくしてプレイは難しいだろうが、奴隷としていつかは挑戦する。いつかは。