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パズルゲーム感想アーカイブ

刻み掠め取る怪盗のリズム “Beat Sneak Bandit”

怪盗のリズムは、抜き足・差し足・忍び足。
マヌケのパズルは、思考・実践・再挑戦。

音楽に合わせて移動しながら、盤面上に散らばった時計を集めてまわるパズル。
トレーラーは作品のクールな雰囲気そのままに、この作品がどんなゲームなのかを見応えたっぷりに伝えているが、どんなパズルなのかについては雄弁とは言いがたい。このパズルのルールはやれば間違いなく理解できるものだが、あらかじめ言葉や映像で説明するには野暮なものであるがゆえ、トレーラーからオミットするという判断もわからなくはないのだが。

このパズルの盤面では終始一定のリズムが刻まれ続けている。敵やギミックはそのテンポに従った一定周期で動作し、泥棒たる主人公もそのリズムに沿って歩を進めることを余儀なくされる。主人公は一歩ずつプレイヤーが操作することができるが、あくまでも主人公が行動するタイミングを選択することができるだけであり、彼がどの方向にどう移動するかはパズルのルールとして厳密に制限されている。
敵を躱せる一定のテンポに合うように歩調を揃えるという内容なので、周期調整の趣向が濃い。

主人公の移動のルールが厳密に定められているというのは前述の通りだが、その詳細は「何もなければ前進を行う」、「行き止まりに到達するとその場で方向転換を行う」、「進行方向と同じ方向の上り階段がある場合は一つ上の階に登る」の三つだけである。階段を上ってしまうと階下へは穴に落ちる等でもしない限り行けないし、スタート地点の真後ろにゴールがあったとしても反対方向を向いていれば遠回りをするしかない。
このパズルはただゴールすること以外にも、収集要素としてそれぞれの問題に小時計が4個用意されていて、ゴールするまでにそれをいくつ集められたかが実績となっている。ゴールは到達してしまうとそこでクリアということで強制的に終了となるので、小時計を全て集めるとなると逆説的にいかにゴールを避けつつ小時計を集めていくかを考えなければならなくなる。
小時計のある場所はそれぞれどうすれば辿り着くことができるのか?それぞれの小時計はどの順番で取るべきなのか?各々違う周期で動く敵をいかなるタイミングで躱していくのか?裏拍を許さない一定のリズムの下、それぞれが固有のルールで管理された動きに支配されたこのパズルは、そのルールを理解しこれらを順番に正しく処理していかなければならない。適当に動くだけでは同じ場所をぐるぐるし続けるだけとなる。

しかしながら、収集の順番は位置関係とギミックの配置で深く考えるまでもなくほとんど勝手に決まってしまうので、ルートを決めた後にギミックが互いに干渉し合ってルートの再考が必要になることなどもなく手応えがない。またギミックの周期はBGMの関係か最長で16拍子という2の冪乗のパターンしかないので、偶奇性もなく簡単である。
裏を返せば長い信号待ちをすることなく解ける軽いパズルということで利点とも言えるが、小時計は累計ではなく一度のプレイで全て集めなければならないこと、そしてルールの関係で一度間違えるとやり直しの効かない詰みの状況が発生しやすいことなどワンミスでそこそこの長さを巻き戻されるため、気軽さに似つかわしくない作業感のごとき怠さを感じずにはいられない。
このパズルを象徴しているのが敵ギミックで、侵入ルートの制限としてパズルのレベルデザインに貢献してはいるが、同時にプレイヤーのストレスを溜める存在にもなっている。
この作品のパズルとしてのユニークさは、どれも裏に気持ちよく解くには欠点となりうる危うさをも抱えている。

パズルのルールという大枠に関してはセンスを感じられるものの、パズルの長さやゲームシステムなどといった大枠が決まった後の中身の肉付け方は大味だったように思う。ラストバトルはテストプレイしていて長すぎると思わなかったのだろうか?
音痴でピアノの弾けない絶望音感のマヌケでもなんとかなるお洒落なパズルではあったが、巻き戻しもスローも不可の一拍一歩を厳守させる必要性はあったのだろうか。
可能性は感じるものの、いまいち気持ちよくなりきれないパズルだった。