悪魔的生命算術法 “Divide By Sheep”
数が足りない?切断死体をゴールで接着すればいいじゃないか!
洪水によって孤立してしまった島々に来た救助船に、指定の種族を指定の数だけ乗せていくパズル。
それぞれの動物は島を飛び越えさせて救助船まで運ぶのだが、指定した島にいる彼らは全員一気に飛ぶ。飛んだ先の島に空きがあればその島の動物が増える、つまり加算されるが、定員オーバーとなれば海へと落ちる、つまり減算される。他にも種族の兼ね合いによる加減算を駆使することになる。
解答を合わせる先は船の定員であり、全員を救う必要はないというのがポイント。別の種族を乗せれば喧嘩になり、定員オーバーになれば問答無用で船は沈む。
救うべき命のために別の命を食わす、切り捨てる、突き落とす……主に羊を犠牲にしながら全体の数を調整していくその内容は、まさしく羊による演算。タイトルに偽りなし。
この作品はレベルデザインだけ見れば単調ではないが手応えに欠けるパズルとして映るが、単なるパズルではなくパズルゲームとして俯瞰して見ると、非常に完成度の高い作品として映る。
命による命の選択という残酷さとは対照的な明るいポップなデザインというのも笑いを誘う点だが、この作品のパズルゲームとして特に優れている点とは、普段ならば仮にゲームであっても目を背けたくなるゴア要素がパズルのルールとして自然に組み込まれるばかりか、しっかり受け入れられる作りになっていることである。
例えば、このパズルにはレーザーというギミックがあり、これを横切った羊は真っ二つに切断される。血まみれで中身丸出しのそれが並んで宙を舞う光景は衝撃的ではあるものの、これらはそれぞれ0.5匹として数えられ、半身2体を救助すれば船の上で接着され1匹として数えられる。これはこのパズルで唯一使える除算であり、その結果1だけでは得られない計算結果を得ることができる。
つまりこの作品におけるゴア要素とは不快感を催す飾りだけの存在ではなく、合理的に利用すべき思考の友である。
救助船の席を奪い合わせる悪魔的行為も最初こそ拒否反応が出るものの次第にただの計算になり下がっていき、積極的に叩き落とし切り刻むようになっていけば果ては自らも悪魔の手先へと変わりゆく。
内面であるパズルと外面のデザインの融合は本来途方もなく難しいことである。大抵の場合、外面のデザインは雰囲気作りや世界観という形でフレーバー程度の彩りを添えるだけであり、最悪の場合装飾そのものに偏った結果パズルがそのおまけになってしまうことさえある。
そのバランスをうまくとったこのパズルゲームの素晴らしさ、ひいてはこのゲームを完成させた制作者がゲームクリエイターとして非常に素晴らしい能力を有していることは間違いないだろう。
パズルゲームのデザインとはレベルデザインだけではない。この作品は外面のデザインが内面たるパズルのルールと綺麗に融合した好例である。