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パズルゲーム感想アーカイブ

脆くても強い建築事例 “Dummy Defense”

無資格建築士の部署異動。
防衛のための責任ある建築も業績第一、所詮は他人事である。

物理演算パズル “SimplePhysics” の派生作品。
SimplePhysicsには「爆風から身を守るシェルターの設計」をモチーフとした “bomb shack” という問題があるのだが、今作はこれとモチーフを同じくする問題集となっていて、問題ごとに指定された攻撃からダミー人形を守れるような設計を行うパズルとなっている。
問題ごとに違うモチーフを用意することでパズルのテーマもビビッドにしたSimplePhysicsとは異なり、今作におけるモチーフは攻撃、すなわち衝撃力や強大な外力への対処と固定されているが、代わりにその攻撃手段を多彩に用意することでテーマに幅を持たせている。
SimplePhysicsは問題数はチュートリアルを含めても13問と非常に少なかったが、今作の問題数は25と倍近く、さらには “Instruments of Death” という、その名の通り殺しの道具の数々をモチーフとしたDLC問題集もあり、それも含めると57と倍以上にすらなる。

守るべきダミー人形ことMelvinは設計の安全性の保証のためか、かなり弱めに設定されている。緩やかに飛んでくる軽めの物体ならば耐えられる程度で、どんなに小さなものであろうとも体のどこかしらに勢いよくぶつかればNG、本人は無事でも踏ん張りきれずに倒れてしまってもNG、膝上程度の高さをジャンプしてしまってもNGなど、彼の防衛のための要求水準は厳しい。
ただし、防壁は無理に堅牢に築く必要はなく、Melvinさえ無事ならばその他のものは無惨に壊れてしまってもクリアとなる。

設計のルールは部材の線を引けるのが格子点限定、部材同士の接合方式が剛接合と基本的にSimplePhysicsと同じだが、今作ではアンカーに限りピン接合になり、また部材同士の交点が必ず節点となり接合されるというルールになっている。節点として使える場所に選択肢が増えたことで柔軟性を持たせやすくなったが、代わりに複数のアセンブリを独立して存在させることが難しくなった。
また部材の特性だが、節点以外で壊れることはなく、接合が外れた後も場に残り続けるというもので、こちらはSimplePhysicsと全く同じ内容となっている。あえて壊すことで絶対に壊れない柱や無敵の盾として使うこともできる。

このような環境下だからだろうか、「各種攻撃から身を守るための適切な設計」という当初のモチーフとは裏腹に、物理演算パズルの枠組は「最小限の要件を満たしさえすればいいなるべく安い設計」というひねくれた解答を要求するものとなっている。
爆風を防ぐ問題であれば、あえて細切れにした部材で囲うことで破壊時の破片をMelvinの後方まで飛ばすことで守ったり、プレス機の押し潰しに耐える問題であれば、倒れない程度の支えだけ用意してあとは節点を持たない無敵の部材を立てかけて全ての外力を押し付けて耐えたりなど、仕様をとことん悪用してクリアをもぎ取っていくその内容はもはやとんち話のようですらある。

しかしながら、予算設定があまりにきついため、設計の面白さよりも微調整の面倒くささのほうが上回った。
SimplePhysicsでも特定の構造から逆算して決めたかのような予算設定の問題が見受けられたが、今作は評価を度外視した予算の上限すらもだいぶ低く抑えられているので、馬鹿正直に守りの設計をしようとすれば簡単に予算を超過してしまう。このパズルはいかに効率よく強固な構造を組めるかという全体的な発想よりも、どこに何を付ければ目的を達成できるかという部分的な微調整を求めるようなものになってしまっているのだ。
しかも、同じ設計図でも試行ごとに結果が変わることがある始末で、最高評価を目指すとなると偶然を待つことすらも必要になってくる。
限定的な設計しかできない幅の狭さゆえに正解か否かの二択しかなかった状況は改善されたといえど、結局微調整ゲーになってしまうのならばSimplePhysicsのほうがマシだった。

おまけのような簡単な問題もあるが大半の問題は難しく、中には単に解くだけでも時間がかかってしまうような難問すらあり、三つ星評価を狙わなくともボリュームが十分なほどあるのは間違いない。
だが、度が過ぎてしまえばただのストレスになるばかりである。真面目な設計を求めず、半ば謎解きじみた発想の転換を求める枠組自体はユニークで面白いと思ったものの、そのバランス感覚を誤ったこのパズルはただただ疲れるだけの作品でしかなかった。

関連項目

Jundroo製 物理演算パズルシリーズ