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パズルゲーム感想アーカイブ

固いほど脆い建築事例 “SimplePhysics”

無資格建築士、事業拡大。
予算以上に負担となったのは「常識」の差だった。

SimplePhysics Screenshot

トレーラーが見つからなかったため画像に差し替え。
問題ごとに定められた要求水準を満たす建築物の骨組みを設計する物理演算パズル。
一段一段しっかり踏みしめても壊れないような階段や、じわじわ増していく積雪に耐え得る屋根など、どのような荷重がどのようにかかるのか、どこまで耐えればいいのかなどは問題によって様々である。無資格建築士の得意分野である橋梁建築もしっかり収録されている。
破壊や設計時のSEすらもない完全無音の寂しいゲームではあるが、パズルそのものはビビッドに作られている。

このパズルの大きな特徴は、一部を除いて部材の接合が全て剛接合であることだろう。ものを設計するタイプの物理演算パズルで今までマヌケがプレイしてきたのは全てピン接合だったので、この違いから来る物理的特性の違いに慣れるのに苦労した。
剛接合とピン接合の違いとは節点の回転を許すか否かで、例えばアンカーから平行に部材を生やしもう一方の端点を自由にした場合、剛接合ならば耐えられる限りは平行を保ち続け、ピン接合ならば重力に従いぶら下がった状態となる。接合方式の違いがもたらす差というものは予想外に大きいもので、例えばトラス構造などは原則ピン接合で最大の強みを発揮するが、なんの捻りもない剛接合でそれをやれば節点に応力が集中してしまい破壊の原因となってしまう。

ただ、剛接合ゆえの物理的特性に関する解説は作中に一切存在せず、さらに全く仕様の異なる問題を解かされるせいで、結果として残ったのは総当たりの末に得た自分の感性では到底受け入れがたい解答の数々といういまいち納得できない答えだった。
特にこのパズルでは、破壊が起こるのは節点に限定されるという剛接合同様に明示されないルールがあるため、全体的な構造を探るというよりは、いかにして応力の集中を分散させるかという発想で解くこととなった。
またこのパズルの設計のルールとして、部材は1種類だけ、端点として利用できるのは設計図の格子点限定と選択肢が非常に狭かったこともあり、試行錯誤しながらじわじわと答えに近づいていくというよりも、壊れるか否かの大雑把な二択をただ続けていただけのように感じた。特に予算制限ではそれが顕著だった。

振り返ってみれば色々と納得はするのだが、それでもやはり序盤の無資格建築士のキャリアが全く通用しない現実は心苦しく、またようやく慣れたタイミングで問題が尽きてしまうというボリュームの薄さゆえに、物理法則の理解に関する手応えや達成感に欠けるパズルだった。
チュートリアルを含めても問題数が13と非常に少ない割にクリアまでにかかった時間は3時間とだいぶ長く、中身が薄いというわけではないが、それはこのパズルの物理的特性を理解し擦り合わせるのにそれだけ時間がかかったということでしかない。

関連項目

Jundroo製 物理演算パズルシリーズ