パズルの胚芽 “Incredible Box”
原始的なパズルだからこそ出来不出来は顕在化しやすい。全く同じルールなのに、なぜ面白く、なぜつまらなくなるのだろうか?
水平方向には立ったり寝たりするように回り、垂直方向には寝たまま回る長さ2の箱を操作して、指定の場所に綺麗に収めるパズル。
目当ての位置に揃えるためにはそこに収まるように箱を回さなければならないが、目当ての向きや位置に揃えるためにはそのための転回エリアを確保しなければならない。
この作品は主人公を操作するタイプのパズルとして非常にシンプルなもので、ギミックの付け足し方で様々なパズルへ分化していく可能性を持つ、完成された一つの大枠とも言えるだろうか。その内容は古典的なだけではなくもはや原始的であるとすら言える。
このパズルで追加されるルールといえば箱の長さが3になることだけでその他の派手なルールの追加などは一切なく、飾り気のないまっさらな状態に近いパズルが続いていくというストイックなものとなっている。
このパズルは盤面の拡大および手数評価によって難易度を上げる手法を取っている。
ただ実際にプレイしてみると、手数評価は大して難易度上昇に貢献していない、盤面の拡大は難易度と反比例と、意図した通りの難しさに繋がってはいないようだった。
手数評価を難しさとして組み込むならば急がば回らせるような妙手を求めたりするものだろうが、そういったものは存在しなかった。ルールの関係上逆算が容易なので、見た目以上に手数を減らすことがそもそも難しいという事情もあるだろう。
一応、選択肢を多く残してその最小を探らせるような問題はいくつか存在していたので、設定した意味は多少なりともあっただろうが、それ以外の問題ではただただやり直しの手間になるだけだった。移動不可の行動を取るだけで1手カウントが入ってしまうのだからわけがわからない。
盤面のサイズと難易度の反比例はよくあるパターンではある。ただこのパズルの場合は、制作者が簡単なものとして分類した問題の出来がなまじいいだけに、余計もったいないと感じてしまう。この作品にはEasy、Normal、Beforeの3種類の問題集に分けられているが、最も難しく、パズルとして歯応えがあったのはEasyである。
シンプルなパズルであるほどダミーのエリアが輝くというのはこのパズルも例外ではなく、自由な転回を阻止するマスをいくつか置き、それ以外を広く見せかけて堂々巡りに陥れるという構造は見事であり、その無駄の削り方、残し方は間違いなくエレガントだった。
しかしながら、そのような素晴らしいレベルデザインがあったのはEasyだけで、盤面が拡大するほどいくつかのエリアを単に区分けしただけのようなつまらない作りになっていた。そこにはダミーの力は存在せず、露骨な転回スペースを利用して通れる道をただ順に通るだけと単調である。特に、それらを一本橋で結んだ問題などはそれ以外の答えを勝手に塞いでしまうので易化も顕著だった。
BeforeはなぜBeforeなのかよくわからないが、おそらくはプロトタイプなのだろうか?地形があからさまな単調な問題が特に多かった。
一応、問題数とプレイ時間の密度でいえばおつまみパズルではあるものの、それでも解き進めるほど単調になっていくという構成はあまり気分のいいものではなかった。逆にBeforeから解き進めていくと評価も変わるだろうか。
少なくとも、美しいレベルデザインの問題が存在したのは確かである。派手さもなにもないストイックで古典的なパズルでそれを実現していることは紛れもない事実であり評価すべきことだろう。