アンチヒーローの疾走 “Dungeon and Puzzles”
RPGで「武器は現地調達」とは「準備をしなくていい」ということではない。むしろその逆である。
トレーラーが限定公開なのが気がかりだが、公式サイトで公開しているので共有可と判断してここでも紹介させてもらう。
ダンジョンをモチーフにした滑る床のパズルで、本来通路で接続されるフロアがそれぞれパズルの問題として分離している。
フロア内には罠や障害物が仕掛けられていて、ゴールである先に続く階段は魔物の存在によって閉ざされている。フロア内の全ての魔物を倒せば階段前の扉が開くが、主人公の初期装備はダッシュブーツだけなので、魔物を倒すにはまず武器を調達しなければならない。
障害物に当たるまで止まれないダッシュブーツが滑る床のパズルの大枠を形成していて、そこにそれぞれ異なる特徴を持った4種類の武器を与えることで武器の性質と取捨選択の二つでパズルの枠組としている。
滑る床のパズルでは滑りを止めるものの操作によって倉庫番の趣向を隠し持つことがよくあるが、このパズルもその例に漏れず、特に魔物含む物体を1マス移動させる能力を持つグローブと盾を主軸に据えた問題はその傾向をより強めている。
ゴール地点が明確なことと武器の能力によってある程度の見当がつくため基本的には簡単だが、小さな盤面の中に隠された1マスのもどかしさの切れ味は鋭く目を見張るものがある。このパズルは評価制度として手数を数えているが、規定手数以下を目指すとなると一気に歯応えを増す。
全ての問題が最短手数というわけではなく、規定手数の総数から全部で100弱も減らせるほどには設定の甘い問題は少なくなく、手数の減らし方も全体的なルートを考慮して減らすよりも1手を節約する部分的な動かし方の総合のほうが多いのは確かだが、あと1手を減らす筋道が全く見えない問題もまた同様に少なくなく、中には手数に依存しないエレガントな良難問も存在している。
サクサク解き進められる問題は多いが、思考を膠着させる落とし穴の深さは確かなもので、覚えたもどかしさの強さゆえに満足感は高かった。
レベルデザインの出来は素晴らしいのだが、しかしながらこのパズルはモチーフとの融合が全くうまくいっていないという欠点がある。
主人公はダンジョンの奥深くを目指すべく武器を手に取り魔物たちを倒していくが、ダンジョン内の魔物は皆主人公に対して一切の危害を加えることなく棒立ちするばかりである。なぜ主人公は武器も持たずに引き返すこともなくがむしゃらにダンジョンの奥深くを目指すのか、なぜ魔物たちは武器を携えながら一切の抵抗をしないのか、主人公や魔物たちの背景が一切語られることはない。
このゲームにおいて、パズルを解くという行為は結果として平和主義者たちを蹂躙することとなっている。無表情の主人公が力を行使する絵面はただただ不気味である。
ダンジョンという土台が先にあってパズルに分化したのか、パズルの内容に合うモチーフとしてダンジョンを用意したのかはわからないが、ダンジョンをモチーフとするならば最低限残すべき設定までオミットしてしまっていて、内面と外面との単純な乖離に留まらずに全く別の意味合いを生み出しかねないような危うさまでも抱えているように見えた。
パズルとしては素晴らしい作品だったが、ゲームとしてはプレイ体験と作品世界とのリンクがまるでない奇妙な作品だった。
道具を選んで障害物を消していくパズルというだけなのに、ダンジョンというモチーフを被せることで全く違った光景に見えるのだから不思議なものだ。こう感じてしまうのは、ひとえにゲームにおけるダンジョンの歴史の積み重ねによるものだろう。