虚飾のタングラムトラベラー “Finding”
人様の世界を乱暴に継ぎ接ぎしただけという厚かましさ満点の作品。
借り物を全て剥ぎ取ったら、この作品には何も残らない。

トレーラーが非公開になっていたため画像に差し替え。
ストアページには残っているので詳しくはそちらを参照してほしい。
この作品は一体どんなゲームだと思うだろうか?旅をモチーフにした横スクロールのアクション?人生を見つめ直すアドベンチャー?

トレーラーを見ただけだと全くそうは見えないだろうが、その正体はいわゆるTパズルに代表されるようなタングラムパズルの詰め合わせである。
主人公は黄色い花に導かれるままにひたすら東を目指して走り続けるが、移動や出会った人々との交流などは全て自動で進んでいく。
途切れた道に差し掛かるとそれを越えるためのオブジェクトをモチーフにしたシルエットパズルが出題されるが、これがプレイヤーが行えることのほとんどで、あとは章の終わりの演出を選ぶための二択に答えること程度しかない。
パズルといっても問題の量もほとんどなく、ただひたすら主人公が走り続けるのを眺めるだけでたまにパズルが差し込まれるだけというこの作品の内容はパズルどころかゲームであるかすらも怪しいものだが、この作品が抱えている欠点はそこではない。
この作品は明確な悪意の上に制作されている。それは作品世界を形作るアイデアを他作品から半ば盗用とも言える形で流用しておきながら、実際のゲーム内容にそれらが一切還元されていないことである。
トレーラーにも堂々登場している通り、『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』からムジュラの仮面のデザインがそっくりそのまま使われている。またラストの一枚絵の背景は “Gorogoa” の一場面がそっくりそのまま使われている。
主人公のデザインは『風ノ旅ビト』(JOURNEY) の主人公に酷似していて、旅の舞台は『アルトのオデッセイ』(Alto's Odyssey) に酷似している。“Alto's Odyssey” は “Alto's Adventure” の続編なのだが、より似ているのはこちらのほうだろう。木や建物などのデザインを見比べるとわかりやすい。
無知なパズルの奴隷の知識でもこれだけの指摘が挙げられるのだから、被害を受けた作品はもっと他にも存在するかもしれない。
ゲームはそもそも独自に生まれるものではなく、少なからず何かしらの作品から影響を受けることで出来上がるという側面があるため、アイデアの流用そのものは悪でもなんでもない。特定の一作品に極端に偏って影響を受けた結果そのものに酷似したゲームというのは良作も含め数多く存在するし、何々ライクなどと呼ばれるもののようにその作品群が一つのジャンルとして確立しているものもある。
また明確な悪を犯した作品であったとしても、注がれた情熱と作品の完成度をもって、倫理上の問題に目を瞑った上で名作の評価を得たゲームは存在する。
ではこの作品はというと、影響を受けた作品群の上っ面だけを好き放題に掠め取り、そのくせ自らの力ではろくに中身を詰められないという愚かさを嘘で塗り固めたまま表出させてしまっている。
この作品に世界を駆け巡る爽快感があるだろうか?この作品に身につまされるこわさがあるだろうか?その中身に再解釈という返しがなければ、それは借用や流用ではなく盗用と呼ぶべき行為だ。
ただ中身がないだけならば凡百のゲームに過ぎない。宣伝と実際の中身が全く違うというだけならばプライドのないゲームに過ぎない。このゲームは借り物のオリジナリティを偽り続けたまま臆面もなく売りに出すという、ゲーム制作者としての存在を許しがたい愚行を冒してしまっている。
こんなゲームでも値段設定がTier 5だったことがあるのだから恐ろしい。盗用は創造の努力を放棄し楽するための手法であるため、やろうと思えばいくらでも狡猾に、邪悪になれる。ただの言いがかりとして片付けられるような逃げ方はいくらでもできるのだ。
この作品もきっと氷山の一角に過ぎないのだろう。