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パズルゲーム感想アーカイブ

わずかな灯火を手繰り寄せて “Flood of Light”

パズルの奴隷にとって大事なのは使命よりも目先のパズルである。
……そう思っていたのに、実はもっと望んでいたものが他にあったことを思い知らされることとなる。

止まない大雨により水没した無人の街 “Hope City” を舞台に繰り広げられるパズル。主人公は光を操る力を持つ謎の少女で、電灯や機械に残ったわずかな光を分配することができる。街の各地には排水装置を起動するためのモノリスが設置されていて、これに光を流すことで水位を下げ下層を目指していく。

光を分配するというこの作品のパズルの内容だが一言で表すならば-1しかできないスタック構造の計算処理といった具合だろうか。与えられた初期値に対して処理を加えて目的の数字を作るというような「演算」がパズルの大枠だが、そのルールに関しては制限が多い。
まず光のルールだが、ステージ上には灯籠といった光を収容するランプが設定されていて、光の届く範囲内であればその間を移動させることができる。ただし移動できるのは光が収容されていない空のランプに対してだけであり、また移動の際は移動元に光を一つ残すため、移動先には元の光の数-1個の光が移動することになる。ランプにはただの中継地点の他、光を入れると指定のギミックが発動するもの、水位を下げるもの、何も起こりはしないが評価に関わるものなどがある。
そんな光のルールが定められた世界で、主人公は円形のフィールドを展開し、この範囲内にあるランプに収容された光をまとめて吸収することができる。吸収はランプを空にする形で行われるため指定の数だけ切り取るような器用なことはできないが、位置や範囲を調整することである程度制御はできる。吸収した光は元から持っている光の数に加算する形で保持され、また主人公から光を移動させることもできるので、彼女は光の数が-1されない移動可能なランプとみなすこともできる。
このように文章でルールを説明しようとすると中々に複雑だが、実際にやってみると簡単でわかりやすい。

このパズルは限られたランプ間での光の移動というシンプルなルールに反して、よく練られたレベルデザインによって奥深いものに仕上がっている。光を移動する順番や回収するタイミングなど、よく考えて動かさなければ早々に光の移動経路が断たれたり、回収不可能な位置に取り残されたりしてしまう。
素で十分難しい上、評価Sを目指そうとするとさらに歯応えが出てくる。何のギミックも発動しない評価用のランプであるWick Lampを全て灯そうとすると一つの光も無駄にすることはできないし、手数もギリギリに設定されているので無駄な迂回は許されない。Wick Lamp用の光をどこで工面するのか、手数を少なくするためにはどのタイミングで何を解放するべきなのか、どうすれば最短ルートになるのかなど、練られたレベルデザインにおいてそれらを同時に解決するには何かしらの妙手が必要になる。いたずらに解くだけでは辿り着けない最高評価という頂への挑戦は手強いものだった。

しかしこれには欠点もあった。この作品は一ステージが長い代わりにチェックポイントを多く挟んでいて遊びやすくはあるのだが、評価目的のプレイにおいてはそれが逆に作用してしまう。光の工面のタイミングを変えたほうがいいと判明してもそれがチェックポイントを過ぎてしまっていたら最初からやり直すしかないし、手数を自己評価してみようにもチェックポイントの区切りごとに保存するしかないのでそれ以前の動きも込みでの検証が難しいのである。
このパズルの達成感はこの長さゆえではあるのだが、同時にこの長さゆえにテンポが悪いとも感じてしまう。とはいえ、もしステージが短かったり問題ごとに切り分けられていれば、テンポが改善されたとしても難しさはその区切られたセグメントの中での最短ルートの探索という形でしか確保できず、ステージ全体で光を切り分け使い切らせる難しさはなくなっていただろうから悩ましい。
何度もう一つ前のチェックポイントに戻りたいと思っただろうか?リスタートだけではなく特定のチェックポイントからやり直す機能もあればよかったのに。

ところで、パズルの内容には関係のないことだが、ストーリーがどうにも浮いているように感じてしまった。
雨の止まぬ廃墟という陰鬱な舞台に反してどこか温かみのあるBGMと、作品全体で統一された儚くも優しい雰囲気は心地よさすら感じるほどだが、それらがその地を往く理由や目的などに還元されることはなく、主人公の周辺の事情は人間の残した資料や打ち捨てられたロボットによって語られるものの、主人公自身の事情については設定こそ語られど心情について全く説明がなかったのは不気味だった。

ネタバレ項目: True Ending

クリアして自覚したのだけど、実は私はパズルを望んでいなかった。ただ、晴れたHope Cityが見たかっただけなんだ。
何なんだあのエンディングは?しかもあれでTrueとは……。あんなでかい空中都市を見せつけられてもクリアした達成感も何もない。ただ謎が増えただけじゃないか。