コンプレックス克服の道は厳しい “Gesundheit!”
弱虫の冒険譚も、実態はただの死に覚えゲーである。
タイトルはドイツ語で元来「健康」を意味する言葉だが、専らくしゃみをした人への「お大事に」という掛け声として使われる。
このゲームの主人公は、そのフレーズを何度口にしてもし足りなさそうな重度の鼻炎持ち。同族にはその体質を笑われ、怪物にはなすすべなく食べられてしまうほどのか弱い存在だが、なぜか自分が垂らした鼻水には怪物を強くおびき寄せる性質がある。自身のコンプレックスたるそのくしゃみを駆使して、ステージ上の全ての怪物を退治してまわるゲームである。
プレイヤーの操作は位置指定による移動と、スワイプで方向と距離を決めて鼻水の塊を飛ばすことの2種類だけである。
主人公自身は鼻水を飛ばす以外に特別な性質を持ってはいないが、鼻水はそのユニークな特性により様々な使い道がある。壁に当たると反射し、重石にもなるのでスイッチも押せる。前述の通り主人公に向かって襲いかかる敵から逃げるためのデコイになるのはもちろんのこと、順に並べることで指定の位置まで誘導することもできる。ただしいくら重度の鼻炎でも限度があるのか、同時に場に残せる鼻水は3滴までである。
怪物の退治方法は位置固定の罠を張り待ち構える地中の怪物に食べてもらうことであり、この罠の場所まで怪物をおびき寄せる方法を考えなければならない。あくまでも怪物同士を食い合わせているだけなので、この罠の上に主人公が乗ればもちろん食われてやり直しとなる。
このように退治方法が自分で操作できないものに依存しているため、本来ならば自ら道を切り拓くアクションというよりは、目的を達成できるルートを設計するパズルのほうが主軸であるはずである。
しかしながら、このゲームの実態は理想と現実で乖離していて、実際にやっていることといえばデコイを撒き散らしながらステージ上のオブジェクトを回収してまわるステルスアクションである。限られた手段でねじれた枠組を解決する妙手を考えたり腰を据えてルートを考えたりするようなパズルの趣向は薄く、しかも解き進めば進むほどレベルデザインはアクションに寄っていきその濃度差は開くばかりである。
ただそれだけならばパズルアクションを名乗りながらもパズル要素のないゲームに過ぎなかったが、このゲームをプレイしている時に感じていたのはとにかく苛立ちで、ゆえに私の中ではパズルか否かどうかなどの考察以前にこの作品の感想はクソゲーで固まっている。
なぜ終始抑えようのない苛立ちを感じたのか、それはひとえに操作性と敵の性質の噛み合わせによるものである。
このゲームの敵は視界が通ってしまいさえすれば距離に関係なく主人公を捕捉できてしまう。彼らにとって重要なのは遮蔽物等の視界を遮るものがあるかどうかであり、それがなければ主人公との最短経路のルートに沿って追いかけてくる。川越しでも地続きならば迂回してこちらに向かってくるほどにその知能は高く、そして一度探知されると撒くには完全に視界外に出る必要があるほどその追跡は執拗である。デコイである鼻水にも同じ理論で誘導されるが、プレイ開始からクリアまで完全に見つからないままで済ませられるほど甘くはないので、この敵の執念には否が応にも向き合わなければならない。ただでさえ有能であるにもかかわらず、後半になれば足の速い個体まで出る始末である。
対してプレイヤーが操作する主人公の動きは愚鈍である。位置指定で勝手に移動する際のルート選定は無条件で最短のものを選び危機回避などは全く行わない。鼻水におびき寄せられた状態の怪物であっても触れると食われてしまうという納得のいかない仕様のせいで、怪物との距離は見た目以上に余分に取らないといけないし、ステージの構造上曲がり角が多いにもかかわらず急激な方向転換にはブレーキがかかる有様である。
ゴミのような操作性は移動だけではなく鼻水の射出も同様である。細かい角度や飛距離の調整をしようにも制限時間があり、一定時間経つと暴発して調整のやり直しになるのが面倒臭い。特に鼻水の飛距離を伸ばす花畑での調整はあまりに細か過ぎて、敵に追われてなくともイライラするほどである。
逃げながらなんとか助かろうとくしゃみをしようにも立ち止まって細かな調整をしなければならないし、ならば先に鼻水を配置しておこうにも時間で消えてしまう。鼻水が場に残る時間は戦略的に設置して使うにはあまりに短い。
パズルですらないステルスアクションに寄せたレベルデザインは進めば進むほどステルスが消え、どんどん純粋なアクションに寄っていくにもかかわらず操作性の改善はないままと、結果的にこのゲームはただただ物理的に嬲られるばかりのものとなっていて、そこから逃げるために頭も使わずごり押しで進むという内容になってしまっていた。
このゲームは実績として回収したスターフルーツの数・所要時間・くしゃみの回数にそれぞれ4段階の評価システムを設けているものの、結局ゴミのような操作性が仇となってそれらもまた試行回数の暴力でねじ伏せるしかなく理知的なクリアからは程遠い。
マヌケは早々に全問全要素最高評価でのクリアを諦め、唯一記録として明確に残るスターフルーツの回収だけ行った。パズルでもない虐殺で自己防衛手段を取り上げられてもなお毅然と立ち向かえるほど私は我慢強くない。
もし時間とくしゃみが累積の実績になっていたなら、暫定クソゲーランキングNo.1のVive le Roiを大きく引き離しての圧倒的1位を獲得していたことだろうが、妥協してもなおいい勝負ができるほどクソだという事実に余計に腹が立つ。
ちなみに、全問全スターフルーツを集めてクリアしたにも関わらずムービーの取得漏れが二つあり、なぜだろうと思ったらどうやらbonus levelsが存在するらしいのだが、マヌケにはそのおまけを解放する手段がさっぱりわからなかった。本来ならば勝手に解禁されるはずのもので実はバグが起きているとか?
全問最高評価でのクリアが条件なら……もういいや。バグかどうか元気に検証できるほどこのゲームはやさしくないから、もうクリアを諦めたってことにしてくれても構わない。それくらいこのゲームをプレイするのはもう嫌なんだ、私は。