絵に描いたゲーム “GRIS”
この作品は「ゲームに描いた絵」ではない。
絵画の中のような美しい世界を舞台にした2Dプラットフォームのアクションゲーム。
ストアによってはパズル要素を謳い文句にしているところもあったため購入したもののやはりただのアクションゲームで、なぜこれがパズルに分類されるのかがさっぱりわからなかった。
アクションゲームをパズルアクションか否か判断するための基準として、マヌケはプレイヤーが取れるアクションとステージのギミックが同列に手札として機能しているかどうかを重視している。
超えるべきものとギミックがあったとして、ギミックとアクションを組み合わせて超えるだけならただのアクションだ。どちらも制限をかけられて、組み合わせの選択を要求されて初めてアクションはパズルアクションとなる。
このゲームではアクションとギミックとで互いに制限し合ったり、複数の手がかりを組み合わせて先に進むための謎解きをしたりするようなことはない。道を塞ぐものはあるがまだ見ぬ能力やアイテム不足などによるあからさまな道の塞ぎ方しかしてない。
せいぜい分岐点を作って迷路のようにするだけだが、分岐先が閉ざされた道1本と残りの脇道だけで、脇道の先で閉ざされた道の鍵を集めて分岐点に戻るという設計ばかりなので迷路と呼べるほどの複雑さはない。
ゆえにこのゲームは純然たるアクションゲームである。
パズル要素が欠片もないくせパズルを謳われると腹が立つのだが、どうせやらないとわからないし、それだけで貶すのもどうかと思うので、以下はパズルを抜きにしたアクションゲームとしての感想となる。
失意に負けそうになりながらも駆ける主人公Grisの動作は疾走感に溢れ美しく、物語が進むにつれさらなる能力を得るとより優雅に舞うようになる。
朽ちた廃城をモチーフに幾何学的デザインで構成された独自の世界はどこまでも美しく、色彩設計は特に秀逸で、色が足されていく度に景色を変える世界は繰り返し駆けても飽きることはない。
動かしているだけで楽しいというアクションゲームとしてまさに理想的なゲームである。
しかしながら、レベルデザインはそれらの自由なアクションをことごとく阻害するものばかりで、アクションの気持ちよさはどんどんなくなっていくばかりだった。
カメラがどんどん引いていくのでGrisのスピーディな動きも鈍重に見えるようになり、またどの壁が通れるのか、足場にできるのかが全体的に曖昧でステージの不親切さが目立つ。舞台が主役よりも背景のほうを見せたがっているかのようである。
このゲームにHPのシステムはなく、高いところから落ちても平気で進行の阻害となる敵も存在しないが、代わりにやり直しが面倒で、一度ミスすると長めの距離を巻き戻されることとなる。それ自体も大きな欠点ではあるがより深刻なのが、この巻き戻しを考慮してなのか、後戻りが利かなくなる状況が頻繁に挟まれることである。
このゲームでは足場を降りることは不可能なので、怪しい場所を調べようにも後戻りができなくなればそれも叶わなくなる。自由で広大な世界を見せかけている割に、実際の自由は驚くほど少ない。
徹底した一本道の設計は一度ゲームをクリアしないとステージのやり直しすらさせてもらえないほどだ。そのくせこのゲームにも収集要素があり、プレイヤーにはわずかなチェックポイントしか与えられないのに、それらは隠し通路や落ちる必要のある場所の脇道等のいやらしい場所に隠されていて、なら収集要素なんか入れるなと言いたくなる。自力で集めるのははっきり言って時間の無駄だった。
徹底的にプレイヤーの自由を奪ってまで描こうとした物語だが、Grisがやったことといえば掠れた声を歌えるようになるまで癒すだけと起承転結のストーリーがあるわけでもない。
5段階実績やストアの説明文からして、大切な人との死別のショックから立ち直ることをテーマとしているのだろうが、一本道設計とシステム上の敵の排除と合わせて、何かを克服して自力で立ち直った感覚は全くない。
ストーリーの演出および収集要素の報酬となる映像から察するに、ストーリー上の障害となる敵として据えられたのは死別の相手で、死の宣告を受けた恐怖による怒りはGrisにも向かい彼女もまた喪失の恐怖を抱えるに至ったが、二人はそれぞれが抱えた恐怖を独自に受け入れ克服しようとしていた、というのが話の流れだろう。だが何も知らない状態でプレイすると、Grisが何をしたわけでもなく相手が勝手に怒ってきて、Grisが何を謝ったわけでもなく相手が勝手に和解してきただけ、と意味不明な物語に映った。
表現したいことはたくさんあるのだろうが、プレイヤーが表現したいことは何もさせてもらえなかった。自由に飛び回れるようになっても、声が出せるようになっても、世界はもう狭くなってしまっていて、後戻りのできない一本道を行くしかない。
世界やGrisのアクション等の絵は溜息が出るほど美しいが、ゲームとしての面白さは見映えの中に完全に閉じ込められてしまっていた。