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パズルゲーム感想アーカイブ

テイク・ミー・ホーム “Bring You Home”

作り込まれた死に様の一つ一つを目に焼き付けよ!
彼こそ真のエイリアンヒーローだ!

ある辺境の星の農夫、ポロの家に泥棒が侵入して、彼の大事なペットを攫っていってしまった。奴らは次元の穴を使って宇宙の各地を逃げてまわっているようで、ポロも跡を追って次元の穴を目指しひた走る。
プレイヤーはポロの行動を一切操作することができない代わりに、ステージを表す区分けされたイラストを切り替えることができる。彼がうまく次元の穴まで辿り着けるように、アイテムや地形等の場を揃えることがこのゲームの内容である。

ポロは同デベロッパーの別作品 “Love You To Bits” にも出演していて、望む結果にならなかった場合に時間が巻き戻る演出が共通している。
Love You To Bitsが宇宙船で星々を巡るアドベンチャーだったように、Bring You Homeは泥棒が開けた次元の穴を通じて異なる世界を駆け抜けるアドベンチャーとなっていて、表現される世界は共通点が多い。パロディやオマージュの数々も健在で、別作品の主人公Kosmoもしっかり友情出演している。
ただし、ゲームの内容は大枠からして全くの別物であり、与えられたカードの試行錯誤によって謎が解ける組み合わせを推理させるという枠組は、入念な探索によって自然に対応関係を埋めていく別作品の枠組とは真逆の作りとなっている。

そんな今作の謎解きだが、その多くは総当たりが必要で、正解したとしてもその理屈は納得から程遠いという残念な内容だった。選択を誤れば主人公はもれなく悲惨な目に遭うのでまさに死に覚えゲーである。
梯子等の地形利用や、横方向の入れ替えなどの問題は順序や因果関係を問うレベルデザインだからか、納得できるしパズルであるとも思ったけど、動物の手を借りたり道具を使った謎解きは一貫性がなく、さながら一発芸博覧会とでも言うべき内容でパズルであるかも怪しい。それらは謎解きにおける暗黙の常識が当てにならないので、ただ偶然が噛み合うのを待つしかなく、ゆえに達成感がまるでない。
例えば、最初の問題では自宅2階の窓から外に出る足場として、階段状に並んだ木箱やタルと、牧草が詰まったリヤカーの二択から選ぶが、前者は木箱が倒れてしまうのでハズレとなる。階段だから降りられるはずだという思い込みは捨てろと、いきなりこちらの常識を打ち崩しにくるのである。
かといって、なら何がこのゲームの常識となるのか、そのヒントは一切示されない。なんなら階段も使えるものと使えないものとでバラバラなので、そもそも常識が存在するかどうかも怪しい。イラストの切り替え中は世界に一時停止がかかるため、Love You To Bitsのように背景から窺い知ることすらできない。
知らないものを推理しようはないので、主人公にことごとく酷い目に遭ってもらうことで情報を得るしかない。そしてその情報集めの過程で使えない選択肢を排除しているうち、納得よりも先に勝手に解けてしまう。このゲームの謎解きの枠組は、そのような矛盾と隣り合わせなのである。

推理のために総当たりするしかないという矛盾も大概だが、アイテムを組み合わせた謎解きを成立させるためか、ポロ本人も矛盾を抱えたバカになっている。
彼はペットのためにただひたすら泥棒を追いかけているはずなのだが、通り道に置物があればそれがどんなにくだらないものでも必ず手に取り、箱があれば開けようとするほど手癖が悪い。道が塞がっているから道具を手に取るわけでもなく、道が続いていても目を奪われ手に取り、よしんば目の前に次元の穴があったとしてもなお変わらない。
その姿は例えるならば、スーパーでひったくり犯を追いながら試食をつまむようなもので、いらぬちょっかいを出したがる愚か者という印象が拭えず、余計に達成感が削がれてしまった。
わざとバカにしたのではなく魅力的な主人公を描こうとしたはずだとは思うが、マヌケにはそれがうまくいってるようには見えなかった。そういえばKosmoも同じ欠点を抱えていたなあ。

この作品の謎解きは考えた末に出した解答に全然違う正解を返されるということが繰り返された結果、最終的には考えることすら馬鹿馬鹿しく感じるほどまでに意欲も達成感も削がれてしまっていた。
総当たりのほうが早くてやる気の起きないゲームでどうしてヒーローが輝けるというのか……。

ネタバレ項目: カントリーロード

ここまでボロクソにこき下ろしてきたが、最後のステージでタイトルが回収される構成には感銘を受けた。
“Bring You Home” は、ポロにとってはペットを自宅まで連れ帰ることであり、泥棒にとっては本来の親元、彼らが仕える女王のもとまで連れ戻すことだった。エンディング、つまり誘拐されたペットがどちらを “Home” に選ぶのか、それを決めるのはプレイヤーであり、ポロではない。

パズルの奴隷たるマヌケはどちらを選んだのか?迷いなくBエンド、女王を選びましたとも!
ポロが脇目も振らずに泥棒を追いかけ続けていたならAエンド、ポロを選べたかもしれないけど、心証が地の底まで落ちている状況では流石に選びようがなかった。

Bエンドは新しいペットに取って代わるだけで、どうせこいつのことだし寂しさを紛らわせられるのなら誰でもいいのかな、と心証通りの結末だった。
ペットロスからの回復に至る心境の変化なども考慮すべきなんだろうけど、怒れるマヌケにそこまでの余裕はない。

ちなみにAエンドも確認してみたけど、こちらはより悪質で、見なきゃよかったとすら思ってしまった。
ペットは親の眼前でポロを選んでみせたというのに、結局彼はペットが寝てる間に親元へ返還と、泥棒と同じことをやる姿に愕然とした。
一見するといい話のように聞こえるから恐ろしい。ポロを選んだペットの意思は尊重されないのか……泥棒に連れられたペットはあんなに怯えていたのに。

付き合わされるこちらの身にもなってほしい。大事なことほど話し合いと手続きは合理的に行ってくれ。

関連項目

Alike Studio製 アドベンチャーシリーズ

同デベロッパーによる他作品の感想アーカイブ