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パズルゲーム感想アーカイブ

夢が覚めても探しもの “Love You To Bits”

大切なもののためなら自分の手を汚すことも厭わない。
ゴミ箱を漁り、人様のものを漁り、それでも見つからなかった大切なものの在処は……。

宇宙探索者・Kosmoを操作して、破壊されてしまった愛するバディロボット・Novaのパーツを集めてまわるアドベンチャー。
彼女のパーツは思い出の品々と共に宇宙の星々に散らばってしまっているので各地を巡っていくこととなるが、それぞれの星がテーマの違った謎解きの問題となっていて、指定されたNovaのメインパーツを集めることでクリアとなる。星が違えば風土も異なり、謎解きのからくりも変わってくる。原住民が拾っていれば郷に従い、手の届かない場所に引っ掛かっていれば使えそうなものを駆使してそこに辿り着こうとする。中には別作品にインスパイアされたであろうものもあり、元ネタを知っていればその再解釈も含めて楽しめることだろう。

Kosmoは位置タップで移動し、行動を起こせる場所ではアイコンが出て、操作すると手持ちのアイテム等の状況に合わせて自動で反応を返す。アイコンは場所の遷移や高台への移動など、探索エリアの切り替えが必要な場合にも出る。
いちいち指示を出さなければ簡単な段差すらも越えられないのは少々不便ではあるが、このシステムのおかげでこのゲームは探索漏れを心配する必要がなくなっている。
時間制限のあるアクションがあったりするので完全に静的な謎解きゲームというわけではなく、ゆえにマヌケ個人の意見ではそれとは外れるが、ゲームの内容はほぼ三人称のポイント&クリックと言っても差し支えないだろう。

謎解きの枠組だが、どの星でもゴールはNovaのパーツの在処という形で明確に示されるので、そのために何をすればいいかは大まかには掴めるが、それらに至る詳細な行動が隠されているといった具合である。同じギミックでも手順の踏み方によって全く別の動きとなるので順序立てた思考が必要になり、謎解きのからくりは星の風土に依存するのでそこがどういう土地なのかの観察が必要になる。
問題ごとに見た目が違うだけでやること自体は探索で集めた情報と使用可能な場所の点つなぎではあるのだが、点を繋ぐ一手間に都度合理を満たす新鮮な視点が必要なことから積極的にパズルであると言える。
中には似たようなアイテムやギミックで代用できそうなものや、使用後のアイテムを再利用したくなるようなものもあるので、全ての謎解きが自然で綺麗な形というわけではなく、またアイテムは使う場所を選ぶ必要もなく勝手に使用されるという仕様によって、納得よりも先に謎解きが展開されてしまい置いてけぼりにされることもあるが、半ば宇宙旅行じみたゲームの構成とKosmoの大雑把な性格を考えれば概ね許容範囲に収まる。

しかしながら、このゲームは任意の収集要素である思い出集めで牙を剥いた。
思い出の品々は一つの星に2、3個存在し、それらは本筋とはまた別の独立した謎解きとなっているが、大半のものは泥臭い探索か、あるいは些細な変化すらも見逃すことを許さない出来の悪い間違い探しのような観察を要求されるものである。中には遷移の操作が不要な地続きの隠し部屋や、特定のタイミングでのみ回収可能なものまである始末で、本筋の謎解きにも影響が出てしまった。
ノーヒントで全て集めようとなれば総当たりに等しい作業が必要となるが、そこに謎解きの面白みは一切存在しない。
それぞれの思い出にはそれにまつわるKosmoとNovaのエピソードが付属しているが、回収の苦労に見合うようなものが得られるわけでもない。

ネタバレ項目: 思い出を集める目的

思い出は集めても集めなくてもエンディングは変わらない。というか、エンディングもただNovaが再起動してKosmoが涙ながらに抱きついて終わりと、何かを語る演出があるわけでもない。
ただし、思い出を集めても結果が変わらないという事実そのものは、淡白なエンディングという点と合わせて大きな意味を持つ。Kosmoを愛したNovaはもう戻っては来ない。死人が帰って来ることがないのと同じで、都合のいい話などそうありはしないということだ。

では、Kosmoははたしてこの結末を、彼の知るNovaが二度と戻らない可能性を本当に覚悟していたのだろうか?

この物語は敵の攻撃を受けNovaが大破するという場面から始まるが、この状況を作ったのはNovaであり、そしてKosmoである。両名は無辜の旅人ではなく、Novaは敵にとっての裏切り者であり、Kosmoは敵に脅されたからとはいえNovaにとっての裏切り者である。
それを踏まえてこの物語を眺めると、Kosmoが彼女を修理しようとする行為には贖罪の意味も見えてくる。二度と愛されなくても、せめて最後に一言謝りたい、そのような動機ならば健気に感じられる。

だが思い出の数々も集めるとなるとどうだろうか。彼が求めるのは素のNovaではなく、思い出を共有しているNovaであるとするなら、彼女の修理に成功したとして、記憶がなければそれは彼にとってのハッピーエンドと言えるだろうか?
思い出の品々を見つけるためには、時にゴミ箱の底や人様のタンスの中などを執拗に漁る必要がある。マヌケの目には、それはまるで妄執のように見える。

つまり、思い出を集めるという行為は、謎解きゲームの質を落としているだけではなく、ストーリー上の演出にも関わってしまっているということだ。
なければ綺麗な愛情の物語で済んでいたのに、これのせいで未練がましい執着の物語に堕ちていた。その点でも思い出集めへの印象は最悪である。

このゲームは本筋だけならば新鮮な気持ちで解ける楽しい謎解きのオムニバスで終わっていたのに、集めるべき要素が付け足された結果、謎解きもストーリーもどちらも泥臭い物語になってしまっていた。
マヌケは外部のヒントに頼らずともクリアはできたものの、なんてくだらないことに時間を割いてしまったんだろうという呆れしかない。思い出なんかなければよかったのに。
君が彼女を愛しても、私は君らを愛さない。

関連項目

Alike Studio製 アドベンチャーシリーズ

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