無機質で無警戒な文字列 “Hack RUN”
$ echo 手動で総当たりするような泥臭いハッカーが今時いるかよ。
とあるハッカーに正体不明の何者かからの依頼が届いた。なんでも、とある組織のネットワークシステムから情報を見つけてきてほしいという。プレイヤーはハッカーとして、ハックツールを用いてシステム内への侵入を試みることとなる。
このハックツールはCUI、つまり操作を全て文字列の入力によって行うシステムとなっている。このゲームにBGMやイラストといった彩りは一切なく、あるのは黒色の背景に緑色の文字列だけの無機質なコンソール画面である。
フィクションにおけるハッカーというと、コンソールに黙々と文字列を打ち込み華麗にエンターキーを叩きつけ、何らかのプログラムを走らせシステム内に侵入するというデジタルな怪盗のごときイメージで語られることが多いが、このゲームでやることはそのようなクールなものではない。
このゲームで行うハッキングの手法はアクセス権限を持った人間のIDやパスワードを知り不正アクセスするというものである。パスワードを盗み出して不正ログインするという手口は現実でも行われていることだが、作中では総当たり攻撃を仕掛けたりデータを盗むトラップを撒いたりすることは一切ない。
プレイヤーが行うのはログインに必要なデータの手がかりを集め、思い当たる文字列をひたすら打ち込んでいくことだけである。時には正解の文字列そのものが転がっていることもあるが、ほとんどの場合はサーバー上に残されたメモやメールの文章から推察していくこととなる。
そんなこのゲームの内容は極論ただの連想ゲームであり、謎解きゲームではあっても、パズルと呼べるようなものでは全くない。
操作系統がCUIであるがゆえに遊びにくくはあるが、幸い作中に出てくる文章は平易なものだし、正解のパスワードやIDも極度にひねくれたものはなく割と素直なので全くのノーヒントゆえに詰まるということは起こりにくいだろう。
しかしながら言語の壁は無視できない。マヌケは英語が苦手なので、謎解きそのものよりも英語の長文を読むことのほうが大変な作業だった。楽しく謎解きしたければ、ある程度の英語の読解力が必要なのは間違いない。
謎解きに際しては文化圏の違いに由来する慣例の差もあるので、この作品を遊ぶならば言語だけではなく常識も含めて自分をローカライズしておく必要がある。
また情報は音声で提示されることもあるので聞き取り能力も必要である。トレーラーのナレーションが理解できるかどうかが目安になるだろう。
ある意味ローカルなゲームとも言えるこの作品の謎解きだが、確かに理屈は素直でも、素直であるがゆえに一度推理を外してしまうと軌道修正が難しかった。
素直というのはひねりがないのと同義ではない。その簡単なひねり方の解釈を間違えてしまうと、推理は簡単にあさっての方向に外れてしまう。
果てには完全に迷子になってしまってヒントではなく正解を調べることも数回あったが、その全てで例外なく「そんな単純な答えだったのか」と肩を落としたものだ。
自称パズルのなぞなぞという時点でそもそもマヌケの心に刺さりにくい作品ではあったが、それを抜きにしてもこの作品がおおよそ理知的なハッキングとはかけ離れた泥臭いものであること、暴いた真相があまりにも現実離れした内容であるがゆえにあまり楽しめなかった。
この作品はこれ単体で全ての謎が綺麗に完結しているわけではなく、今作に続くシリーズ作品がいくつか出ているのだが、それらを遊ぶ気は今のところない。今度はノーヒントでリベンジしたい、もっと謎を解き明かしてやりたいという思いがマヌケの心に宿らなかった以上、これからも謎が解き明かされることはないだろう。