心身共々骨抜きの魔窟 “Human Fall Flat”
マルチプラットフォームのエゴが生み出した怪物。歴代のクソゲー共を過去のものにする圧倒的なクソゲーである。
ふにゃふにゃのキャラクター「ヒューマン」を操作して、広大なワールドのどこかに設置されている非常口を目指すアクション。
主人公は四肢の働きによって動くというというよりも、重心移動によって引きずられるように動く。この重心の移動が強いのか、あるいはヒューマンの踏ん張りが弱いのか、おそらくその両方だろうが、この奇妙な物理的特性により彼らの挙動は非常に不安定で、歩く姿はさながらベロベロの酔っ払いのようである。
両脚が情けない代わりに、ヒューマンの両手は強力な粘着力を持ち、くっつけた手を支点として重心移動することで器用な動きをすることができる。崖を登ったり、ブランコのようにぶら下がった振り子の勢いを強めたりなど、不安定な挙動とは裏腹なアクロバティックなアクションの数々はユニークである。
意外な機動力の高さによるアンビバレントなアクションが最大の特徴ではあるが、パズルはおまけではなく物理演算を生かし道を塞ぐ壁としてしっかり高く作られている。
ヒューマンの身体能力を悪用した強引なインチキは可能だが概ね難しく、転がっている道具と地形を見てヒューマンが何を起こせるのか、その組み合わせを試してみるほうがヒューマンをより柔軟にしてくれる。この自由な世界では、壁は超えずとも壊したっていいのだ。
ワールドには模範回答であろう順路が用意されているがそれを示す矢印があるわけでもなく、道程はプレイヤーの好奇心に委ねられる。どのワールドも広大なので、目の前の道をどうやって解くかではなく、どこを通るかという探索の楽しみもあるだろう。遠回りに見える道の中にも時にはショートカットが隠されていたりする。
ただし、全てがパズルアクションとして調整されているわけではない。このゲームにおけるパズルとは、時にアクションにアクセントを与える存在であり、時にアクションにブレーキをかける存在である。
前者はアクションの幅を広げてくれるが、厄介なのが後者である。物理演算の割合が消え純粋なパズルになればなるほど手先の微調整が求められるようになり、ヒューマンの身体能力もただただ操作をやりづらくさせるだけのデメリットしか表出しなくなってしまう。
パズルの奴隷たるマヌケとして、このゲームにおける足止めとしてパズルによる謎解きが取り合わせとして正しいのか疑問で仕方がないのだが、このゲームのパズルはマルチプレイを前提として設計したように見受けられる。本来なら分散しているはずの負担を一人で全て抱えるしかないのだとすれば、パズルが目立つほど嫌気がさすようになるのも仕方のないこととして納得できる。解くための環境は最悪なので疲労感が達成感を上回ってしまうものの、足りない腕をどう補完するかを考える問いは歯応えがある。
総合で見れば個人的には消極的パズルだが、このゲームを楽しめるジャンルとして分類するならば純粋にアクションと呼ぶべきように思える。
しかしながら、そういったパズルアクションの如何など一切どうでもよくなるほどに、このゲームはクソゲーだった。それも半端なものではなく圧倒的なクソゲーである。
その原因はiOSというプラットフォームを選んだがゆえに発生した致命的な欠点、処理落ちとバーチャルパッドという二つのクソ要素に由来する。
まず処理落ちだが、広大なワールドを収めるのにマシンパワーが足りていないのか、あるいはシステムの問題か、ワールドの広さに比例していると思われる処理落ちが常時発生する。入力遅延は0.3秒〜0.5秒ほどで、酷い時は1秒以上にもなる。ここまで重たいアクションを一体どうやって楽しめと!?
狭いチュートリアルワールドであるミュージアムですら動きが軽くカクつくほどなので、他所のワールドでふにゃふにゃアクションを滑らかに行うなど望むべくもない。ソロプレイですらこの有様なのだから、マルチプレイで文句が噴出するのも納得である。
マヌケの機種はそこまで非力じゃないはずなんだけどな……Switchのほうがポンコツなのに。
そしてバーチャルパッドだが、重要な役割を担う手の操作性が最悪である。
片手は掴んだまま離さずもう片方の手で何かをするというコントローラー操作なら簡単なことでも、バーチャルパッドでは精密な操作が求められる。片手を動かそうとして両手が動き、両手を動かそうとして片方の手が離れたり、手を離そうとして誤ってジャンプしてしまったりなど、何を考えてその配置とシステムでコントローラーと遜色のないプレイができると判断したのか理解に苦しむ。
せめて、コントローラー操作推奨の表示があればこの苦しみは仕方のないものとして諦めることができたかもしれない。バーチャルパッドプレイはただただ苦行でしかなかった。
これらはプラットフォームのせいで発生した欠点だと思われるので、本来ならば作品そのものとの感想と分けて考えるべきことだろう。だが、マヌケは作品の発売を制作者によるプレイ可能という判断として信じてプレイしているので、それが大きく裏切られるというのはマヌケから事実を切り分けて考える理性を奪うほどに許しがたいことなのである。
どんな評判があったところで実際にやらなければ本当のことはわからないというのもあったが、まさかここまで酷いクソゲーとは……なぜこれほどまでに酷い処理落ちが起きるシステムでいけると思ったのか?処理落ちを回避できたとしてもなぜこれほどまでに酷い操作性で楽しくプレイできると思ったのか?なぜこんなものにゴーサインが出たのか本気で理解できない。
あまりの酷さにシステムの改善がなされるまで積んでしまおうかと途中で心折れかけたものの、全ワールドの通しプレイを達成することで解除される実績「タイムアタック」の存在により、新ワールドの追加によって実績解除が難しくなるほうが早いと考え、奴隷の意地でなんとかできる限りの実績を解除した。
未解除のまま残った実績は操作精度の必要な「スムーズな動き」および「チクタク」、清算タイミングが不明かつ達成率を確認できないせいで解除ができない「冒険家」の三つである。
遊びやすくなったらチャレンジしようとは思うが、もう二度とやりたくない思いが強い。
柔軟なアクションと広いワールドに散らばる選択肢による自由度、自由を制限しつつも地形と道具で新たな視点を生み出すパズル、マルチプレイによるハプニングと本来ならば楽しいゲームなのかもしれないしその可能性は間違いなく窺えたが、二大クソ要素を抱えていながらそれらを楽しむ余裕はさすがのマヌケでも持てるはずもなかった。
追記
機種変更により処理落ちが改善されたので改めてプレイ。
3世代分進んだとはいえ、前の機種も化石というわけではなく結構なパワーを有していたはずなのに……ここまで劇的に改善されるとは。
遂に滑らかなプレイができるようになった反面、二大クソ要素の片方が消えたところでもう片方のクソ要素、手の操作性の悪さがより際立つようになってしまった。
元来の手の動かしにくさに加えて、意図せず手が離れる、手が張り付きにくいなどの細かい不便さが目立つようになってきて、やはりアクションをクールに決めようとするには致命的である。
程度は落ちたとはいえ、二度とやりたくないクソゲーに変わりはない。
処理落ちが改善されたため、残り三つの実績の解除に挑戦し、「スムーズな動き」および「チクタク」の解除に成功した。
「スムーズな動き」は外部ヒントを頼り真似をしてみてもどうにもうまく屋根まで辿り着けなかったので、屋根の前に足場を用意することで解決した。ただし、いつの間にか解除されていたのでこれで確実にうまくいくのだと保証することはできない。
「チクタク」はスタート地点の家の閂を持ち込み立て掛けショートカットを作ることで解決した。板を立て掛けただけの不安定な急坂でも登れるヒューマンを見ていると、本来は底なしのポテンシャルを持っているのだと改めて思ったのだが、やはり自発的にあれこれ試す気にはなれない。
ちなみに「冒険家」は未解除のまま残ってしまった。下位の実績「旅人」の解除タイミングが「タイムアタック」と同時だったので、嫌々ながらも再び通しプレイをしたのだが解除されなかった。未だ25kmに到達していないのか、カウンターがどこかでリセットされてしまっていたのか……おそらく両方な気がするので通しプレイで25km分歩いてからクリアすれば解除されそうな気もするが、距離計があるわけでもなし、確実な解除を保証されない限り未解除のままずっと残り続けることになるだろう。
追記
iOS版は前回のLumber追加アップデートの時ですら未収録のステージが残されていて更新が追いついていなかったので、来るな来るなと願えども段階的にアップデートは来るものだと覚悟していたのだが、今回なんと現時点で未収録だった7ステージを一気に追加するという大型アップデートが行われた。
リリースノートから追加は1ステージだけだと誤解していたこともあり、あまりの変化の大きさに憂鬱で仕方がなかったが、なんとかやる気を奮い起こして一通り確認したので、以下はそれに関する追記である。
大量のステージ追加に不具合修正と一見すると大規模なアップデートだが、実態はパブリッシャーの差し戻しによる仕様統一だろう。
iOSにおけるHuman Fall Flatというゲームは、日本向けに販売しているアプリ (id1468034815、以下「日本版」と略記) とその他の地域向けに販売しているアプリ (id1438091392、以下「本家」と略記)、そしてApple Arcade専用アプリ (id1632286352、以下「アーケード版」と略記) の少なくとも3種類が存在していて、今まで日本版のパブリッシャーはDMM GAMESの運営会社EXNOAだったが、今回のアップデートで他の2種類のパブリッシャーと同じ505 Gamesへと変更されている。
日本版のアップデートが非常に遅い一方で、本家およびアーケード版はPC版から半年〜1年ほどの遅れはあるものの、積極的に追いつくべく足並みを揃えたアップデートが重ねられていた。
今回3種類全てのパブリッシャーが揃い、バージョン番号も揃ったことで日本版の内容は全て本家と同等になったと見ていいだろう。
仕様統一の影響は単にステージの数が揃っただけではなく、システムも日本版から大きく変わっている。
タイトル画面の時点ですぐにわかるのがフレームレートの高さであり、遊び始めるとレンダリングの違いに驚かされる。影が随分と荒くなってしまっているが、その代わりに全体的に明るくなっている。静止画だとぼやけているように見えるが、動かしてみると高fpsもあってかエッジははっきりしているように感じられる。


かつて旧機で処理落ちに大いに悩まされたのは先述の通りだが、あれはパフォーマンスの調整の結果だったのだろうかとふと考えた。グラフィックにこだわる代わりにフレームレートを落として対処しようとしたのだろうかと。
とはいえ、本家のプレイ動画で処理落ちに悩まされているものを見ないので、どんな判断があったにしろ日本版がプレイ体験を無視したろくでもない仕様だったのは確かである。
しかしながら、結局圧倒的なクソゲーであるという印象は変わらなかった。フレームレートが上がったことで、むしろ悪化している可能性すらある。
手の操作性の悪さは相変わらずで、撫でるだけで思うように掴まない、意図せず手が離れるなど、今まで通り散々苛立たせられたが、今回目立ったのがカメラの不便さである。前後にガタついて3D酔いの原因になったり、近すぎてアクションに支障が出たりなど、今まで他のクソ要素の影に隠れていたのが本家との仕様統合によって表に出てしまった形である。
新ステージの中には順路を外れる自由へのハードルが低いものがあり、そこでは初めて探索を面白いと感じたものの、基本的にはアクションの精度を求められたり、手先のこまごました操作を求められたりすることが大半で、二大クソ要素を抱えながら楽しくプレイできるわけがなかった。
そもそも探索の楽しさもふにゃふにゃである必要性はなく、アクションを差し引いたウォーキングシミュレーターとしての面白さでしかない。
旧機ではとにかく処理落ちがあまりに酷かったことと、前回はそれが改善されたことの比較になっていたため今まで思い至る余裕がなかったのだが、今回改めてプレイして、私にとってこのゲームが圧倒的なワーストであり続ける理由について一つの気づきを得た。それは一人ならばパズルはシラフで解くべしという当たり前の標語である。
このゲームはレバーの操作や棒の差し込み等の細かい手続きほどうまくいかない。それはまるで酔った人間が細やかな動きを鈍らせるかのようである。
酔った人間を見るのは愉快だし、たとえ自分が酔いに苦しんでも誰かと一緒ならば酔った人間同士笑い合うこともできるだろう。だが自分が酔うだけで何が楽しいというのだろう?
酔拳とたとえられる通り、酔った人間の大ぶりな動作は時としてアクションを面白くさせるかもしれない。このゲームでもパルクールとして昇華されている通りである。だがパズルはただ気持ち悪くなるだけでしかない。
パズルを取り合わせた以上、このゲームはクソゲーである。
そして、このゲームはプラットフォームの都合で余計に酷くなっている。持てと命令して持たず、飛べと命令して飛ばず、カメラは前後不覚に揺れ動く。自分が酔っているだけでなく、システムすらも酔っているのだ。
ゆえに、このゲームはプラットフォーム込みで圧倒的なクソゲーなのである。
ちなみに、実績機能に変更は入っていなかった。本家もPC版のような追加実績はなく、日本版と同じくDarkまでの実績で止まっているらしいのだが裏は取れていないので本当のところは不明である。
今回仕様統一によって残る実績「冒険者」も取得できるようになったかもしれないと、連動を切った空のローカルデータで通しプレイをしてみたが解除されなかった。1km歩行の実績「旅行者」の解除タイミングがTrainのクリア前だったので、あの距離で1kmが出るなら1周すれば流石に25kmは超えるはずだと踏んでいたのだが。これは設定された条件が25km以上なのか、それともバグで解除されないのか、はたまた仕様統一の影響で実績機能が連動しなくなってしまっているか。
真相は不明だが、とりあえず「冒険者」の解除はもう絶望的だということだけはわかった。