輪郭のない未練 “In My Shadow”
精神の葛藤に答えを出すにはどうすればいい?——曖昧なまま突き進めばいい。
……そんなバカな。
部屋の壁に映る少女の影を操作するアクション。
このゲームの特徴は部屋の中の家具が作る影が少女の足場を構成することである。少女の操作はZX平面上の2Dプラットフォームだが、足場の構築はXY平面上に配置されたいくつかの家具の位置をずらすことによる影絵作りとなっている。
左端がスタートで右端がゴールという一般的なスタイルだが、ステージには “memory snippet” なるいくつかの欠片が散らばっていて、ゴールにはそれら全ての回収が必須となっている。少女の操作中に適宜家具の位置を変えることはできないので、スタートからゴールまでで全ての欠片を集めきれるような配置を完成させなければならない。
少女は高さ調節ができないもののかなりのジャンプ力を持っているが、当然それだけで全てを乗り越えられるほど万能ではなく、そして足場用の家具は潤沢ではなく、空いた隙間を埋めるには少女の脚力に頼るしかない。
互いの存在なくして成立し得ないこのゲームの内容は間違いなくパズルアクションと呼べる内容である。
このパズルは壁が2面になってから本領を発揮する。
一つの家具がそれぞれの面に影を映すことで、一方を大きくしようとしてもう一方の位置がずれてしまったり、一方に特定の高さの足場を用意しようとするともう一方は高くそびえる壁になってしまったりする。
この性質だけでも十分にねじれているのだが、レベルデザインもまたよく練られていて、直感的に家具を置きたくなるような場所は大抵、先回りでそれを通させないような落とし穴が用意されている。例えば欠片が塞がれたり、触れるとミスとなる障害物にぶつからざるを得ないような足場が出来上がってしまう。
あちらを立てればこちらが立たず……このパズルはこのもどかしさと常に隣り合わせである。
しかしながら、それらを解決する方法はことごとく曖昧さに頼ってばかりで面白くなかった。ジャンプ中の慣性といったアクションのギリギリを攻めたり、家具の細かな凹凸や曲線上の立てる勾配を探ったりなど、仕様の悪用とゴリ押しに物を言わせる解法である。
頭の回転による発想の転換よりも指先の微調整がものを言うので神経質にならざるを得ず疲れるし、出来上がった盤面に美しさの欠片もないがゆえに達成感も薄い。
よくねじれた素晴らしいレベルデザインだったからこそ、その解決が力押しに依存していたのが残念でならなかった。
影の少女を操作するというゲームの内容は、若さゆえの反抗で家を飛び出したものの、家族仲への未練が家の中で子供の姿の影として具現化しているというストーリーとのリンクを持っている。パズルを解き進める行為と主人公の和解の心境に至る過程の結びつきは素晴らしいのだが、それを妨げるのはモチーフとの関連も何もない味気ないトゲやら回転ノコギリやらというのはいささか雑なように思えた。
主人公の頑固さや不器用さの表現だろうか、レベルデザインの関係でミスは少なくない数起こるのだが、いずれにしろデザインのミスマッチが浮いて見えた。
パズルもストーリーも非常によくできていて素晴らしいのだが、どちらも解決に至る過程に難を残しているのが惜しくて仕方がなかった。
ちなみに、それぞれのステージは例外もあるがノーミスか否かでゴールした時の反応が変わる。ノーミスでは少女と家族が抱擁を交わすが、ミスがある場合、抱きつこうとした影は消えてしまう。
いくつかの問題集でノーミスクリアを達成したが何も変化がなかったのでデスペナルティの類はステージの変化以外に何もないと思うのだが、実績といいこういった演出の差を見せつけられると完全ノーミスクリアで何かあると示唆されているような気分になってくる。
とはいえ、そこまでする気力は流石に持てない。ただでさえ神経質にならざるを得ないゲームなのにもかかわらず指先の微調整に少女の操作と足場とで2種類の異なるセンスを要求されるため、ハードルが高くてマヌケといえど気は乗らない。
実績といえば余談だが、マヌケはこのゲームの実績を全て解除できたものの、ギャラリーで見返せる要素となっている写真が1枚行方不明になっている。幼い頃の主人公と子犬を写した2枚目の写真だ。
ステージにmemory snippet以外の収集物はないし、他の写真がいつの間にか見られるようになっていたことを鑑みるに、写真は解き進めるうち自動で解除されるものだと思われるので、不具合が濃厚だろうか。
また、全て解除されたといえど、実績の挙動はかなり怪しい。実績の中には全ての写真を集めるものも含まれていて、1枚行方不明のマヌケは本来なら解除できないはずだが、なぜが最序盤に唐突に解除されている。
他にもクリアの実績が開始のタイミングで解除されたり、100回ミスした実績が序盤に解除されたりしている。神経質になるゲームといえど、序盤に100回もミスするほどこのゲームは鬼畜ではないし、私もまたそこまで愚かではないはずなのだが。3時間以内にクリアの実績も初見で解除できたものの、このように不安定で信頼できないシステムなので果たしてその計測が本当に正しかったかどうかは疑問が残る。
そのくせ、スキップ利用の実績はクリア済みステージには適用外と変な所で妙に厳格である。
マヌケは実績のため2周してそのどちらもで件の写真を集め損ねたのだが、この写真を見られるようになる日は来るのだろうか?