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パズルゲーム感想アーカイブ

帰りの遠足 “Down in Bermuda”

かくれんぼで最後の一人が見つかった時、隠れてたその人は鬼の探し疲れてやつれた顔なんてきっと見たくないはず。

飛行家の主人公・ミルトンが航行中の嵐によって悪名高き島「バミューダ」に囚われてはや30年。このゲームは彼のバミューダからの脱出を手伝うポイント&クリックである。
そんな変な島で30年もよく生き延びていられたものだとか、島を出たがっているなら今までイカダの一つも作らなかったのかとか、そんな簡単なパズルに一体何年費やしてるんだなどと初っ端からツッコミ所満載だが、とにかく彼の脱出には神に差し伸べられた救いの手、すなわちプレイヤーの操作が必要なようだ。

バミューダは島々が集まった諸島であり、島の一つ一つがシームレスなフィールドを舞台としたポイント&クリックの問題として分離している。
島々の移動にはオーブゲートを使うが、未踏の島へ渡るには現在いる島のオーブを全て集めなければならない。つまりオーブ回収が大枠で、一つ一つのオーブに別々の枠組が設定されている。
主人公はミルトンだが、彼は操作キャラクターではなくギミックとして働き、島中のギミックの操作や収集物の回収などは島を俯瞰する一人称視点のプレイヤーが全て行う。さながら箱庭の中を眺め弄って楽しむような感覚である。

それぞれの島は異なる独自の文化や生態系を有していて見応えはあるが、どの島でもやることは同じである。
島には散らばった多くのスターと、謎解き要素となるいくつかのからくり装置が存在しているのだが、これはつまりメインはスターのかくれんぼであり、寄り道としてパズルをアクセントにしているという構成である。
探し物がメインというだけでも自称パズルだが、肝心の謎解きもやらされることは見えているボタンを押すだけだったり、レバーを引くだけだったりなど、考える必要すらもないものが多く、そうでないものすらも見たものを見たままに入力するだけの点つなぎでしかない。謎解きではない普通のパズルもあるが、全体のバランスを考えてかやはり同等に簡単なので、それ単体で全体をパズルと言わしめるほどの魅力は持たない。

おそらく、このゲームの主題は探索そのものにあるのだろう。
どの島も広大で、横穴や木々の間といった場所に隠れたスターを見つけていくのは探索の面白みがある。スターを探すうちに謎の装置や建造物を目にすると、何に使うものなのだろうか、ここで何が起こるのだろうかと好奇心が湧く。探索の最中に見つけたボタンをポチッと押せば、別の謎解きの始まりである。
ただの探し物だけでは途中で飽きてしまうだろうが、他の謎解きのピースを混ぜることで常に興味関心を引き続けられるように工夫している。また、オーブは物語のフラグにもなっていて、回収に応じて島の状況が変わることもある。
謎解きが直感的かつ簡単なのも探索を重視した結果であり、ゲーム体験が退屈にならないための工夫だとすれば納得できる。

しかしながら、やはりパズルの奴隷としては退屈で仕方がなかった。探索を楽しく感じたのは確かだが最後まで持続はせず、オーブを集めきった後に残ったスターの回収をする頃にはもはや飽きてしまった。
謎解きが片付くほど関心を引けるものがなくなっていくからという構造上のやむを得ない欠陥もある。このゲームには地図の未使用クリアで解除される実績があるが、これに挑むと地図が果たす役割の大きさを実感する。地図があるからこそ探索を気持ちよく終わらせられるのであって、縛ると最後の数個を見つけるのが作業となって、このゲームがいとも簡単につまらなくなってしまうのだとよくわかる。

だが私が飽きた原因は他にもあり、そもそも世界がそこまで魅力的に感じられなかったというのが大きい。
この作品のデベロッパーは “Agent A: A puzzle in disguise” の制作と同一だが、Agent Aではキャラクターや舞台の面白さに加えて愉快な主人公による珍妙なフレーバーテキストの数々が作品により深みを与えていて面白かった。だが今作のテキストは全体的に味気なく、主人公は脈絡もなくあちこちをうろついているだけで、プレイヤーを認知していても事務的なコミュニケーションしか取ろうとしない。
つまり、この世界はクリアに関係せずとも調べたくなるような興味を引く魅力に欠けているのだ。ゆえに、解き進めるほど淡白になっていくのである。

このゲームはシステムにもいくつか欠点があった。
一つ目は、ギミックの作動等で変化した物体に視点が移った後、元いた場所までカメラが戻らないことである。広い島には似たような景色が連なることもあり、どこを探索していたのかわからなくなってしまうことがしばしばあった。
二つ目は、特定の島だけをやり直す機能、または手動セーブ機能がないことである。それ自体に必要性はないのだが、実績に関係することで欠点となっている。ミスを許さない1手を問うパズルの実績は、この仕様のせいで間違えた場合一からやり直しとなってしまう。

初めて探索する時間はいつだって楽しかったが、あとは右肩下がりでつまらなくなっていくばかりだった。
かくれんぼを飽きさせない工夫が素晴らしかったのは確かだが、そもそものかくれんぼの魅力は薄かった。

関連項目

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