ドタバタ諜報活動 “Agent A: A puzzle in disguise”
サブタイトルの “A puzzle in disguise” は日本語訳だと「偽装のパズル」。しかしながら、この作品の謎解きの内容はそのキャッチコピーに反して至って素直である。
諜報員のエージェントAにとある指令が下った。敵対組織の諜報員、ルビー・ラ・ルージュの計画を阻止せよというものだ。
プレイヤーは主人公であるエージェントAとしてルビーのアジトに潜入し、彼女とその背後に隠された陰謀を暴いていくこととなる。
物語は全5章だが、1・2章および4・5章は長いステージが途中で分割されているだけなので、実質的には3章で構成されている。
画面上の怪しい場所を調べて情報を集めてまわり、それを基に先に進むための謎を解いていくというその内容はいわゆるポイント&クリックと呼ばれるもので、パズルというよりも謎解きゲームの意味合いが強い。
謎解きゲームがパズルであるか否かは難しい問いだが、謎解きの内容が情報とその使用場所で1対1の対応というわけではなく、時には複数の情報の組み合わせが必要だったりすることや、軽く終わるとはいえ総当たりが必要な独立した仕掛けがあること、純粋なパズルのミニゲームがあることなどを鑑みると、このゲームはしっかりパズルでもあるように見える。
マヌケが謎解きゲームをパズルであるか否か判断するための基準は色々あるが、ポイント&クリックにおいてはそれぞれの謎に対する手がかりの紐付け方が特に大きな判断基準となる。特に謎と手がかりの対応が1対1の場合は集めた情報と使用場所の点つなぎをするだけの作業になってしまうので、そういった類のものはマヌケに言わせればパズルを自称したただの謎解きゲームとなる。
常に探索漏れを考慮しなければいけないのが嫌で嫌でしょうがなくて、ゆえにマヌケは謎解きアドベンチャーを苦手としているのだけど、このゲームは粗悪なそれにありがちないまいち納得のいかない無理のあるからくりや、見つけにくい場所を選んで隠したようなアイテム、反応の悪いオブジェクト等が少なかったため、マヌケでも割と解きやすかった。
特に、謎解きそのものはかなり素直である。この作品には特定の場所で特殊な操作を要求する裏の謎解きとも呼べる実績が存在するが、解放前の実績の説明文というわずかなヒントだけでもほとんど自力で見つけることができたほどである。おまけ要素ですらわかりやすいのだから、本編の謎解きの理屈がいかに自然なものであるかは言うまでもない。
ちなみに “Sashimi Buzz-Cut” だけはノーヒントでの達成はできず、唯一外部ヒントに頼ることとなってしまった。正解に近いことは一度試したのだけど、場所が悪かったのか無反応だったせいでこれは違うと諦めてしまったのだ。あの発想はちょっとこじつけが過ぎる気がするが、理屈で悩むのはその程度と言えるほどには素直である。
しかしながら、しらみ潰しの探索が必要なのはこの作品も例外ではなく、また少ないながらも理不尽なアイテムの隠され方もゼロというわけではなかった。
背景と見分けのつかないようなアイテムが何の脈絡もない場所に「落ちて」いたり、一見それっぽくなさそうな場所が実は詳しく調べられる場所だったりする。
考えることよりも探すことのほうが時間がかかるというのはマヌケにとって気持ちのいいものではなかった。
とはいえ、謎解きのからくりがわかりやすいおかげで、詰まった時はその理由が解ける謎の見落としではなく探索漏れによるものであると容易に絞り込めたため、そこまで大きなストレスになることはなかった。
それにやはりこの手の謎解き特有の、一つの謎が解けると一気に世界が広がったり、複数の謎が同時に収束していく様は純粋に気持ちがいい。
軌道に乗せられているようで癪ではあるが、この感覚こそがポイント&クリックに代表される謎解きアドベンチャーの面白さだと実感するし、その為には探索という探し物のフェーズが必要であることにも納得がいく。
謎解きゲームとしての面白さもさることながら、この作品の魅力はこの物語世界そのものにもあるだろう。謎解きがそもそも響きにくいマヌケには、むしろこちらのほうがより面白かったと思うほどだ。
謎解きゲームとしては王道でも普通に住むにはあまりに不便な、珍妙な仕掛けだらけの邸宅というわけのわからない舞台が成り立っているのは、舞台どころか登場人物全員が抜けているところがあるからだ。
主人公のエージェントAは機関発足以来最高の腕前を持つ諜報員という設定だが、作中の謎解きにおいて凄腕諜報員としての明敏さはあまり窺えず、どちらかといえば頭よりも体で解決するというその行動の数々には隠しきれないマヌケな愚直さが表れている。そして映画に出てくるスパイのような気取った、だがどことなく抜けている独特な言い回しの数々はとても愉快で面白い。操作によって細かく変わるフレーバーテキストはどれも読んでいて楽しくて、謎解きに全く関係ないとわかっていてもついつい探してしまう。
ルビーもルビーでこのポンコツエージェントを前に罠に嵌めたら即刻抹殺するでもなく、何度だって高笑いをしては知恵比べと言わんばかりにパズルを寄越してくれる。
一般的にシリアスでサスペンス系のものが多いスパイものだが、皆人間臭く愛嬌があり憎めないという独自のコメディチックな世界観は面白かった。
ストーリーはルビーとの決着は付けられるものの、敵対組織との抗争に完全な決着が付くわけではなく、エージェントAの属する諜報機関を取り巻く一連の事件は未解決のまま終わってしまう。
エンディングは彼らの戦いがこの先も続いていくことを予感させる終わり方で締められているが、はたしてその物語に真に終止符が打たれる日は来るのだろうか?パズルの奴隷たるマヌケはその時が訪れることを願っている。