光あるところ狂気の影がさす “Where Shadows Slumber”
一周まわるごとに映す世界を変える幻惑のランタンを巡る狂気の物語。
……ところで今は何周目?
不思議なランタンの力を駆使してゴールを目指すパズルアドベンチャー。
壁や柱などで形作った暗闇の影を動かすと、影が通った場所は動画のトランジションのように別の光景に切り替わる。崩落した道が繋がったり、オブジェクトの位置が変わったり、時には全く違う風景が現れることすらある。
この性質を利用して途切れた道を繋げていき、ゴールを目指して進んでいく。
使える影は一問につき一つとは限らない。影が形作れる場所の数だけ影があり、またそれぞれがもたらす変化の数も違っている。プレイしている時はステージ全体の裏表を影というスイッチで切り替えているかのように感じるが、実際は影ごとに数ある選択肢のうちの一つを選んでいくというものであり、その内容はモンタージュに近い。
それぞれの影がどこにどのような変化を与えるのかは実際に影を操作しなければわからない。パズルの全容を最初から詳らかにせず、一部を隠してその欠けたからくりを紐解かせるというのはマヌケの嫌いなやり方だが、このパズルの場合は不思議とあまり気にならなかった。
隠されたものの対応関係の観察を要求するのはこのパズルも変わらないが、観察よりもその後どう動くべきかの思考に時間をかけさせるようなレベルデザインになっているからだろうか。
光の行き帰りで偶奇性があること、位置によっては複数の影が同じ場所を通りすがることがあることなど、自分が光をもって影を作るという行動は予想以上に盤面にねじれをもたらしていて、小粒ながらも光るものがあった。
しかしながら楽しいのは途中までだった。進むにつれて移動先が気まぐれなNPCを誘導する問題が出たり、実質的には神経衰弱とも呼べるような目隠しプレイを強要する問題が出たりと、パズルとしての面白さはどんどんなくなっていくばかりだった。
一応、最後の最後で面白いパズルに戻っていたのでゲームクリア直後の印象はそこまで悪くはなかった。終わり良ければ全て良し。
最終問題は冷静になって考えてみれば大して難しい問題でもなかったけど、急に正統なパズルが、しかも巨大な盤面で戻ってくるものだから予想外に手こずらされた。
ところでこの作品、雰囲気やストーリーといった外面は意外を通り越してかなりバイオレンスである。ランタンに対する取り憑かれたかのような異常な狂気はもはやサイコホラーの域である。
プレイ中はパズルの内容にしか目が行ってなかったせいか作品が表現しているものが何なのかという疑問に答えが出なかったが、公式の説明文を読んだうえで改めて見返してみると割とわかりやすい物語だった。
主人公がすぐに息切れして荒い息遣いになっていたのは老体で体力がなかったからなのか……。ランタンがただ走馬灯を見せているのではなく本当に時間や運命を操作しているのだとすれば、あそこまで必死になるのも納得である。どうあっても抗えない死を前にしたなら、意地でも生に執着する気持ちが芽生えてもおかしくはない。
こうして改めて俯瞰してみると、このパズルのルールとストーリーは密接に結びついていたのだとわかる。問題の並べ方も実は狙っていたのだとしたら、レベルデザインはともかくとして、パズルゲームとしての出来はかなりのものではないだろうか。
今日もまたどこかで血みどろのランタン争奪戦が起きているのだろう。