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パズルゲーム感想アーカイブ

あなたの隣に殺人鬼 “Slayaway Camp”

血飛沫と悲鳴の飛び交う愉快痛快爽快なパズル。
B級ホラーと舐めていても、本物が目の前に突然現れたら誰だってびっくりして逃げ出すはず。

動き出すと障害物に当たるまで止まれないキャラクターを操作する、マヌケが勝手に滑る床のパズルと呼んでいるタイプのパズル。
プレイヤーが操作するのはB級ホラーの大御所たる殺人鬼や怪物をモチーフにしたキャラクター達で、NPCに接触すると問答無用で殺してしまう。盤面上の能天気な一般人共を全員殺し尽くし、その血で召喚されたであろうゴールの魔法陣を踏めばクリアとなる。

滑る床のパズルでは滑りを止めるものの存在が必要不可欠で、滑る順序に加えてこれをどう工面するかが一つの枠組となるのだが、このパズルでは一般人がパズルの最大のピースとなる。そしてこの作品のユニークな点は、その位置を調整するルールが一般人の逃走という形で表現されていることだ。
こちらの移動を制限する警察一派を除き、NPCは殺人鬼が隣接したりすぐ隣で人が死んだりすると恐怖のあまり逆側へと一直線に逃げていく。このルールはパズルとしての深みを出しているだけでなく、恐怖を目の当たりにした一般人の反応としても自然で、作品そのものの雰囲気ともリンクしている見事な表現である。
なぜ真っ直ぐにしか動けないのかという疑問はさておき、殺人鬼のスピーディな移動と殺害時の舞うような華麗な手捌き、飛び交う血飛沫は爽快感たっぷりで見ていて気持ちがいい。作品世界はボクセルアートで形作られているため痛々しさを覚えることはあっても不快感を催すことは一切ない。
一応グロ要素を完全にオフにする機能もあるが、B級ホラー映画を下敷きにしたことで醸し出される雰囲気まで変わるわけではないし、殺害の代わりに魔法のようにポンと骨に変えてしまうというその内容は少々抜けているところがあるので、できればグロ要素オンでのプレイが望ましい。

そしてこのパズルの面白さは見た目だけではない。パズルの根幹であるレベルデザインもまた優秀である。
滑る床のパズルはゴールが明確ならば逆算は容易ということがしばしばあるが、このパズルはその手段として一般人の移動を組み込まなければならないためそう簡単にはいかない。彼らは狩りの対象であるだけではなく自分の移動を止めてくれる存在でもあるので、誰をどこへ動かしどの順番で始末していくかを順序立てて考えなければならない。
本編の問題は適当に仕留めてまわってもある程度なんとかなりはするものの、高難易度版の問題集では人一人の処理を間違えると詰んでしまうような正解に至るまでの筋道が細い問題も出てくるので歯応えは十分だ。

欠点らしい欠点といえば、視点が等角投影なためマップの構造が把握しづらいことだろうか。パズルの奴隷としては視認性が落ちるなど言語道断なのだが、しかしながらこの爽快感は単純な見下ろし視点だと得にくいものだっただろうから一概に欠点と言えることでもないのだが。見た目がわかりにくくなるくらいならシンプルなデザインでいいというマヌケの自論が崩れそうだ……。
あとこれはパズルには関係のないことだけど、操作キャラクターでもあるB級ホラーの有名人たちのコレクションを集めるゲーム内コインを利用したガチャで、これを回すためのコインの入手方法が最終的にパズルに関係のないミニゲームだけになってしまうのは明確な欠点と言えるのではないだろうか。全部でいくつ入っているかもわからないし。

視認性と収集要素の集めやすさに難があるだけで、レベルデザイン良し、ルールとモチーフの融和良し、ボリューム良し、アンドゥ完備でゲームテンポ良しと隙なし文句なしの良作である。
際立つ良問が揃っているわけではないが、おつまみパズルのように気軽に挑めるパズルでありながらもその難易度はどんどん歯応えを増していく苦み成分の多いパズルとして、色々な意味で痛烈な経験ができた。背徳と理屈の狭間でもがき苦しめられることのなんと楽しいことか!

追記

新ビデオ “Santa's Slay” に加え、既存の問題をそれぞれ改変した “NC-17” という問題集が各ビデオに追加された。ちなみにNC-17の意味は日本語で言うところの18禁に相当する。
それぞれの問題にマイナーチェンジ問題がプラスされたことで単純に問題数が倍になっただけでなく、その内容も高難易度版ということで大変豪華なアップデートだったが、元が難しい問題だとそこまで難しくなったように感じられず拍子抜けだったように感じた。つまり後半ほど手応えを感じられなかったが、逆に言えば前半の難化っぷりは歯応え抜群なので後半から逆になぞっていくといい感じに楽しめるのかもしれない。

ところで、このNC-17の開放条件は本編に相当する全てのビデオを見終わること、つまりSpace CampのS13をクリアすることなのだが、これを既にクリアしている人に対しては最初から解放するという当たり前にあっていいはずの親切はなく、わざわざ解き直して改めてクリアしなければ解放されないというのは説明不足だった。簡単に思いつく内容で解放されたからいいものの、既プレイの人に対して何のアナウンスもなかったというのは不親切だったのではないだろうか?