m-log
パズルゲーム感想アーカイブ

夢か現か幻か “Starman”

記憶に残らないという事実が強く記憶に残る不思議な作品。
何も印象に残らないというのは無個性と同義だろうか?少なくとも私の答えはNoである。理由はどうであれ、人の認知からすり抜けるというのはそれもまた一つの個性である。

色のないモノトーンの世界で、様々な施設の最奥部に隠された光の粒子を集めるパズルアドベンチャー。
この作品に明確な物語はなく、主人公の正体も旅の目的も一切語られることはない。それはパズルの内容も同じで、何がパズルのルールで何が正解で、どこを目指すべきかを指示されたり説明されたりすることは最序盤を除き一切ない。
とはいえ、道路の敷き方やギミックの導線がしっかりしているため、目的はわからずともとりあえず今何をすればいいのかに関して迷うことはない。

行先に迷うことはなくても、パズルが解けずに迷うことは起こりうる。
このパズルのメインギミックはブロックと光 (電気?) だが、ブロックは離れた足場を繋げたり、高さを稼いだり、スイッチの重石としてなど様々な使い道があり、しかもそれらは最小限しか用意されていないので互いに使い回していかなければならない。
できることから逆算していくと選択肢が絞られていくため詰まりはすれども難しくはないのだが、その内容は少なくとも見えるものを見える範囲のそれっぽい場所に運ぶだけで済むような単調なものではない。
もちろん他のギミックもあり、それぞれのギミックの動作を理解して何を使い何をすべきかを考える必要があるので、しぶしぶパズルと呼ぶことが多いパズルアドベンチャーでありながらも、この作品は割と積極的にパズルと呼べる。

しかしながら、この作品はクリア後に何の印象も残さなかった。どんなパズルだったかどうかの記憶すらも残らなかったためこの文章を書くために2周したほどだ。
移動速度が遅くて冗長な作品だったから?世界がモノトーンで眠くなるような濃淡だったから?ストーリーの中身が何もなくプレイヤーの想像に丸投げするようなものだったから?パズルの内容が簡単だったから?
どれもこの作品に間違いなく存在するマイナスの要素だが、そのどれもが本質的とは言いがたい。上記の欠点を複数抱えた作品なんていくらでもあるし、なんならもっと酷い欠点をも抱えた作品だってあるけど、それでも最低限パズルの内容がどんなものだったかどうかは大まかにでも覚えているものだ。

ちなみにこの作品には “Flow Mode” という本編とは趣旨の異なる別のモードが用意されている。セグメントごとに分割された謎解きをしていく本編とは違い、こちらはだだっ広い一つのフィールドに隠された複数の謎を見つけ出していくという内容である。
本編の内容とは対照的に、こちらの謎解きの内容はただの探し物がほとんどで、完全に自称パズルになってしまっている。一応ギミックを利用した段階的な手続きの必要な謎解きもあるものの、思考よりも観察が重要なためやはりパズルとは言いがたい。
だが、この作品で記憶に残ったものがあるとするならばこのモードのものである。カラフルだからだろうか?天気の変わる広いフィールドをぴょんぴょん飛び回れるのが気持ちよかったからだろうか?本編がそうであるように、きっとこちらもそのどれもが本質ではないのだろう。

パズルとしての体裁を保っていても、記憶が残らなかったのならばそれはつまりつまらなかったということなのかもしれないが、そういう印象すらも残らなかったのだからなんとも言いがたい。
私が雰囲気ゲーと称すのは中身のない外面だけのゲームへの皮肉だけど、この作品はあまりに印象に残らないので雰囲気ゲーであるかどうかすらも怪しい。
ここまで記憶に残らないゲームも珍しいと言える。

関連項目

同デベロッパーによる他作品の感想アーカイブ