揺り揺られる幽光 “Linelight”
自分を振り回し、自分に振り回され、誰かを振り回し、誰かに振り回される。
この線形迷路では、わずかな光の震えさえ許されない。
線形の道筋をひた走る一筋の白い光を操作してゴールを目指すパズル。
A world of 1D puzzles awaits.
というキャッチコピーを謳っているが、通り道の形状を直線に制限しているだけで、キャラクターの動きはグリッド等の厳密な制限のない滑らかな2Dパズルとなっている。
道中は色ごとに異なる性質を持つ光やスイッチ等のギミックによって閉ざされているので、これらを順番に攻略していくことになる。
光は移動の性質によって区別された赤、橙、紫、桃の4種類が存在し、どの光も白い光が接触すれば等しくミスとなってしまうが、同じ光として白い光と同様にスイッチを押したりギミックによって長さを変えたりすることができる。
直接操作するのは白い光ただ一つだけだが、実際はより多くの光と、時に妨害されながらも協力して解く感覚が強い。
このパズルは偶奇性を主な枠組として、自分の行動による誘導や連動による移動の制限によってねじれを作っている。
偶奇性は揃える手段が限られるため簡単になりやすいのだが、このパズルは基本的な盤面のサイズの小ささに反して意外にも歯応えのあるものとなっている。スイッチのオンオフだけではなく、光の前後に進行方向、通路の形状など、向きを組み合わせたことによる偶奇性のバリエーションは幅広い。
また、自操作との連動の取り入れ方が巧く、ただ一つ偶奇性を入れ替えようにも何の工夫もなしに動かすと退路を塞がれたり、押したスイッチを元に戻されたりなど干渉してしまうようになっていて、思惑通りに事を運ぶのは容易ではない。
説明されねばわからない詳細なルールを利用した問題もあり提示の順序に多少難があるが、解けてしまえばどれも素直に納得できる。
区切りのない2Dアクションだからこそ可能となる曖昧さを利用した問題もあるがおまけの範疇なので、本筋の問題では無理やりな解法がうっかり通ってしまうことはあれど、わかりにくさに嘆くことはない。
ただ、このパズルは操作精度を求められる問題があることが欠点として強く残ってしまった。精度を求められるのは主に自操作に依存して動く橙と紫の光に関連した問題だが、短い猶予や狭い隙間しか残されない問題は少なくない。
考え方の誤りではなく単にタイミングが合わないだけだとはっきり判別できるレベルデザインなので幸い迷走することはないが、発想が正しくても操作精度のせいで先に進めないストレスはかなりのものである。
マヌケがプレイしたのはiOS版だが、このプラットフォームでは操作をそつなくこなすための環境がないこともこの欠点をより酷いものとしている。
その場に留まり時間経過を待つ2点ホールドの操作で移動が同時に起こってしまったり、本来なら白い光をホールドしなければ起こらないはずの紫の光を引き寄せる操作が離れた場所で行われた移動の操作でなぜか発生してしまったりなど、他プラットフォームでは簡単に行えるかもしれない動作でもままならない。world 5は本当に最悪のエリアだった。
このパズルはシームレスな接続を生かせばどこまでも難しくなることができるはずで、実際そうした問題もあるのだが、それでも手頃の範疇に収まっているのを見るに、ゲームの全体を通して難しくなりすぎないように調整されていると思われる。
それでも小さな盤面に大きなねじれが組み込まれたミニマルな良問が数多くある中、パズルアクションに片足を突っ込んでしまったせいで意味もなく無駄に苛立つことのあるゲームとなってしまっていたのが残念でならない。
余談だが、このパズルは収集要素があり、本筋で手に入る黄の星とは別に、隠し通路の先にある問題を解くことで得られる緑の星が存在する。何のあてもなく自力で探すには過酷だが、ワールド選択画面で星の在り方は明確にされている。堂々バラすくらいならわざわざ隠したりせず最初から詳らかにすればいいのにと思うのだが、それを参考にすれば探索に苦労することはない。
しかしこの世界にはそれ以外にも、黄でも緑でもない紫の星がただ一つ存在していて、これを取得するためのアプローチに関してはノーヒントとなっている。
マヌケはイースターエッグのかくれんぼに対して時間を割くのは嫌いなので、早々に外部ヒントに頼って解決する気でいたのだが、得たヒント通りに探しても何も見つからないというまさかの事態に陥った。
最終的になんとか紫の星を獲得することには成功したが、そこに至る道は得たヒントとは全く無関係の場所だった。
紫の星へ至る道
マヌケが得た外部ヒントは「紫の星を得るにはb+のどこかに隠されたスイッチを押さねばならない」というもの。
しかしながらこれは他プラットフォームの攻略情報なのか、iOS版のb+にそれらしき場所はなかった。
iOS版におけるそのスイッチは、epilogueの序盤のエリアに隠されていた。

ワールド選択画面で不自然に枠がない場所があるので不審に思い行ってみたら当たりを引いたという形である。
マヌケは基本的にノーヒントのかくれんぼを嫌うので、これで見つからなければ泥臭い探索などはせずに諦めてしまうつもりだった。
紫の星は自力で取得するものではなく、他者に取得してもらうものである。余所者が拾って行く様を見せつけられて、マヌケは何が起こったのか理解するのに時間がかかってしまった。
半ば自力で掴んだにもかかわらずただ困惑しただけで何の感慨も生まれもしないとは……。
さらなる余談だが、このゲームのキャラクターは “-” の形の光、世界は線形と最小限のシンプルなデザインになっているが、飾り気がないわけではない。
道筋を示す線は光の筋が走るように綺麗に伸びていくし、色彩は淡い光が映えるグラデーションがかかっているし、BGMも優しくもリズミカルで心地いい。
パズルには関係のない要素でも、シンプルなモチーフでも、飾ろうと思えばいくらでも美しく飾り立てることができる。
ネタバレ項目: 一筋の光に宿るもの
このゲームのデザインの素晴らしさは、美しさだけではなくナラティブな熱さを内に秘めていることにある。
各ワールドの後半はワールドの主題となる光と協力しながら先を目指す構造になっている。パズルの上ではただの流れ作業でしかないが、一つの光と最後まで協力しながら道を切り拓き並走する展開はただの光ながらもまるで相棒のような信頼感を抱いてしまう。さらにはその協力関係にあった光たちが一堂に会する展開には心躍らずにいられない。
ウィニングランにパズルは関係なくとも、パズルの歯応えゆえに一層気持ちよく感じられるのかもしれないと思うとパズルに関係のない要素として一蹴できなくなってくる。
シンプルなデザインに詰め込まれた心を揺さぶる演出には脱帽である。