陰陽乱高下の妖絵巻 “Lynn, The Girl Drawn On Puzzles”
「パズルを想像する」「パズルを創造する」
「パズルを解く」「パズルを説く」
無数の箱が描かれた迷宮の絵巻物に吸い込まれた少女・燐をゴールまで導くスライドパズル。隙間にパネルを1枚ずつスライドしていくタイプのものである。
パネルはそれぞれ一箇所だけが開いた箱となっていて、箱をスライドした際に開いた面同士が隣接した場合、キャラクターは自動で隣の箱へと移動する。箱の移動と受け渡しによって太極魚の描かれたゴール地点まで燐を運べばクリアとなるが、この箱間の移動は燐だけでなく敵キャラクターたる妖怪や障害物たる人魂にも適用されるので、燐の移動と競合しないように箱を並び替えていかなければならない。
ギミックは選択肢を縛るものから広げるものまでふんだんに用意されているが、よくあるむやみな易化などは一切なく全てがパズルにねじれをもたらすものとして組み込まれている。
スライドパズルでありながら、導入されているギミックの性質上詰みのケースが存在するのがマヌケとしてはマイナスだが、それを上回るほどのプラスも十分にある。
またこのタイプのスライドパズルは得てして簡単になりやすいが、手数評価によっていたずらな移動による解法を抑制している。
しかしながら、ほとんどの問題で難しさの根拠を手数に依存しているのは面白くなかった。単調なパズルというわけではないのだが結局は15パズルで、いくらゴールを遠ざけギミックで隠そうともそこへ至る道を一つ一つ紐解いていけば、手数はともかくとしてひとまず解けてしまう。
さらに、その手数すらも設定が甘い。制作者のテストプレイで決めたのだろうか?最小とは限らないどころか豪快に減らせることすらある始末で、その様はもはや雑とすら言えるほどだ。
終盤は規定手数以内が当たり前というほどに余るようになるので、いっそのこと手数制限などなくしてしまえばいいのにと思ってしまうが、妙手を求めるクレバーな手数設定の問題も存在しているので考えものである。
とはいえ、全ての問題が手数を抜きにして簡単というわけではない。本編の最終章であるChapter 9は歯応えがあるし、全体を通しても達成感のある良難問はいくつか存在する。
少しでも余白があると退避スペースとして使えてしまって一気に簡単になるので、この手のパズルはやはり離合エリアのないループや枝分かれを作れるかどうかが大きな鍵となるようだ。
開口面の関係で選択肢が狭められるほど必ず通るべき順路として浮かび上がってくるので、このパズルの場合は余白を削った上で選択肢を広く見せかけるほど難しくなるのではないだろうか。
一応、ギミックと別のギミックを同時に動作させた場合の優先順位や起動の有無など、それぞれのギミックの正確な仕様に関して実は詳らかではないので、これを難しさの根拠とすることは可能である。現にこれを利用した桁違いに難しい問題が存在するが、しかしながらこれは良問とは思えない。
おまけの問題集にあるレベルデザイナーの開発秘話を読む限り、こういったルールを探らせる過程は意図して入れたものだと思われるが、これをパズルの複雑さとして取り入れることを好意的には捉えられない。パズルというよりもはや謎解きのようにすら感じるしデバッグ作業みたいだし、なによりギミックはルールであるべきというのがマヌケの信条である。
十把一絡げに手応えのない問題だと一蹴できるものでもなく、手数に依存した問題でもそうでない問題でも中には良問が存在するのは確かなので可能性が感じられるパズルではある。
ただしその差が天地ほど激しく離れているので、とにかく洗練されていないという印象が強く残ることとなった。
ちなみにDLC問題集として『栗鼠』があるが、こちらは手数および一切のギミックを取り払った何の変哲もないただのスライドパズルとなっている。本編のプロトタイプだろうか?
純粋なスライドパズルとして勝負するならば余白を詰めるのは絶対だが、総じて詰めきれてないので手応えのない単調なパズルとなってしまっている。やる価値は全くなかった。