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パズルゲーム感想アーカイブ

まわれまわる水道管 “Pipe Push Paradise”

帰宅するまでが仕事です。

島の各戸に訪問し、破断した水道が繋がるように配管を運ぶパズル。
パズルに使われる配管といえば転がし始めると止まらないという勝手な固定観念をマヌケは持っているのだが、このパズルにおける配管はどんな形であれ動かしたマスの数だけしか動かない。つまりこのパズルは純然たる倉庫番ライクである。

Pipe Push Paradise is a difficult open world puzzle game about plumbing. という説明文の通り、このパズルのテーマは表向きには配管なのだろうが、個人的には回すこと、厳密に言えば “Flip” がテーマであるように感じた。というのも、この作品は回転のルールによってZ軸方向の要素も含んだユニークな2.5Dパズルであるからだ。
このパズルにおける配管は条件を満たせば90°回しながら1マス分動かせる。そしてこの動きにより運ぶべき配管は向きを持ったベクトルとなる。
倉庫番において運ぶブロックに向きの要素を導入するのに、ルールとして最初から組み込んでいるのはこのパズルの面白い点だろう。

さらに細かく言及するならば、配管の繋ぎ方に選択肢がほとんどないがゆえに迷うこともなかったため、テーマである配管の割に線の繋ぎ方に悩む感覚はなく、あるにしても退路の確保に悩むことが多かったように感じた。
水道管が繋がっても自分が脱出できなければ意味がないというのはルールの妙もさることながら、脱出できずに立ち尽くすしかない様は行き詰って呆然とするマヌケの胸中と重なるものがあり愉快だった。

ただ、レベルデザインに関しては綺麗すぎるというか、必要以上に無駄が省かれている印象を受けた。
盤面を狭めて動きを制限させるのはパズルのレベルデザインの基本ではあるが、あまりに狭められすぎると一見無意味な謎のスペースが有効に使われるべき空間として勝手に浮かび上がってしまう。
結果的に、このパズルは回転や移動による配管同士の作用を見出さなければならない中盤が一番難しく、回し方を覚えて以降はやるべきことの整理とそのための筋道を立てるパズルと化した。仮に詰まったとしても妙に片付いた盤面を観察すればヒントが得られるという、純粋な思考とは微妙にずれた感覚をもって解くパズルだった。

とはいえ、段階的に考えやすいパズルであることは間違いない。ユニークなルールの倉庫番としてだけでなく、構成におけるまとめ方の美しさからしても良作と呼べるのではないだろうか。

ちなみにこの作品はマルチプラットフォームではあるが、全てのプラットフォームにおいてシームレスなわけではない。少なくともiOS版においては各戸が問題として分割されているためシームレスの欠片もない。
パズルを解くだけならば大した違いではないが、パズルゲームとしてこの作品を味わい尽くすには、正しくオープンワールドで展開されるプラットフォームを選んで遊ぶことを強くおすすめする。

関連項目

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