魔法にかけられた世界 “Pocket Kingdom”
この世界を形容するには “enchanted” よりも “disguised” のほうが正しいのではないだろうか。
多額の借金を一発で帳消しにしてしまうほどの神秘が眠るとされる空中都市 “Pocket Kingdom” を舞台にしたパズルプラットフォーム。
飛行船に乗ってくだんの空中都市を見つけたはいいものの近づく過程で攻撃を受け飛行船が大破、からくもPocket Kingdomに辿り着けはしたが帰る手段がなくなってしまって途方に暮れるという場面からゲームは始まる。
パズルそのものは部屋ごとに別の問題として区切られているが、その分岐先は多方向に枝分かれして全体で一つの広大な世界を形作るといういわゆるメトロイドヴァニアである。
とはいえ、部屋の構成が分岐面はシンプルに分かれ道の提示を、パズル面は集中して解くべきパズルをと明確に区別されているので、狭義のメトロイドヴァニアの趣向は薄い。
任意の通過済みの部屋へのワープ機能も遅くないタイミングで解放されるし、後述の基本ルールによる制約も相まって、メトロイドヴァニアの割に完全な手詰まりや迷子にはなりにくいようになっている。
肝心のパズル部屋についてだが、この島には普遍のルールが三つ存在していて、それがレベルデザインの枠組にもなっている。
一つ目は、このゲームが完全なグリッド制であり、登れる足場の高さなどが厳格に定められていることである。そのため見た目とメトロイドヴァニアのもたらすイメージに反して、実はこのゲームにアクション要素は一切ない。
二つ目は、部屋の上下左右が繋がっていてループするようになっていることである。
壁でない限りは左右で高さが違っていても通り抜けられるし、ジャンプで届かない上段の足場などは下に落ちてしまえば上から落ちて乗ることができる。この作品はパズルプラットフォームではあるが、重力は必ずしも乗り越えるべき壁というわけではないのである。
そして三つ目は、部屋間の移動は梯子またはドア (一方通行も含めるならワープポータル) を通した移動に限られるということである。
このルールのおかげで辿り着くべきゴールは明確になるし、分岐点も梯子やドアを目印にして見つければいいので探索の手間が省ける。
このパズルのレベルデザインは上記の基本ルールを踏まえ、レーザーによる行動範囲の制限とスイッチによる制限エリアの切り替えをベースに組み立てられている。
初期配置から1手間違えた時点で詰んでしまうような正解への筋道が細すぎる問題もあるものの、スイッチのオンオフのタイミングやブロックを置くべき場所など、ゴールに辿り着くためには順序立てた思考が必要なことはどの部屋のパズルにも共通していて、サイズの小さな盤面に反して手こずらされることの多い骨のあるパズルだった。
メトロイドヴァニアよろしく能力強化によって意図せず簡単になってしまう問題もいくつかはあったが、それをもってしてもなお難しいパズルもあるので最後まで油断はできない。
しかしパズルとしてのレベルデザインに反して、メトロイドヴァニアとしてのレベルデザインはパズルに反目するようないやらしい設計になっているのが気になった。
単にクリアするだけならば目に見えている範囲の謎を解くだけでいいのだが、その背後には注意深く探さなければ見つけられないような場所に入口が隠されている部屋がいくつか存在する。それらに関するヒントは無意味な足場などのレベルデザイン上の違和感ぐらいしかなく、このゲームは自力での完全クリアを目指そうとすると途端に理不尽なかくれんぼと化す。
またUIでも不親切な点があり、見づらい足場がある、アイコンで隠れる位置に梯子がある、フックショットで掴めるものと伸びる長さが不明瞭であるなど、パズルの入れ込みに反して探索方面が空回ってしまっている印象も否めなかった。
そもそも、問題の切り分け方をメトロイドヴァニアにしたことで得られたメリットはなかったように思う。
なまじパズルのレベルデザインがよかっただけに、メトロイドヴァニアが蛇足となってしまっていたのが残念でならない。
パズルとメトロイドヴァニアのどちらがベースとして先だったのかはわからないが、少なくともメトロイドヴァニアをベースにするならば探索の面白さは絶対条件だろう。