橋梁の工学的再解釈・迷 “Poly Bridge 3”
無資格建築士のロックアウト。
悪化した就労環境と易化した案件の数々は今のマヌケにはまさしく役不足である。
工学的発想で構想を練る動的な橋渡し物理演算パズル “Poly Bridge” のシリーズ3作目。
前作はばねが導入されたこともあってか橋造りはより派手な、動的な内容になっていたが、今作では一転して控えめな、静的な橋造りに主軸が置かれている印象を受けた。
これは工学的発想が不要となったという意味ではない。今作でも油圧シリンダーは続投しているし、橋の定義が疑わしい建造物を設計する場面も度々出てくる。ただ、今作は創造性の行使による型破りな橋よりも、物理法則に忠実に従った堅実な橋を求めているように見えるということだ。
というのも、今作は問題の構成やレベルデザインが入門的にまとめられているのだ。いくつかのテクニックについてTipsを設けるのは前作でも散見されたが、今作ではより明示的である。
今作はワールドごとに難易度とテーマが定められていて、属する問題はそのテーマに従った内容となっているので、段階的に解き進められるようになっている。
さらに、今作の問題の中にはアセンブリがあらかじめ用意されているものがあり、そこでは強力な組み方のサンプルを学ぶことができる。無資格建築士としてのキャリアが長いマヌケには既知のことばかりではあったが、一から始めるには馴染みやすいのではないだろうか。
アセンブリは序盤はガイドとして機能すると同時に、解き進めるうちにやがて設計の邪魔になるというのもギミックとして面白い。
静的な橋造りの趣向が強い理由はそれだけではなく、設計のルールにおける前作からの変更点からも窺える。
任意の位置に絶対に壊れないアンカーを設置できる新部材・基礎の導入、部材配置禁止エリアの設定、前作で登場した部材・強化道路の廃止、ばねの伸縮設定の削除など、これらの仕様の調整は、雑な補強や強引な外力に頼ることなく、然るべきエリアにゆっくり綺麗に橋を架けてみせよと訴えているかのようだ。
マヌケはあまり上手く使いこなせていなかったものの、ばねの伸縮が生み出す幅は理解していたので、強化道路の削除共々創造性に反する行為ゆえに多少なりとも難色を示さずにはいられないが、創造性を行使するよりもまず基本的な設計が重んじられるべきと考えた結果であるならば、その判断は支持したい。
しかしながら、入門編として見た場合、マヌケの目にはただ中途半端なだけにしか見えなかった。
やっていることはただ問題を主軸ごとに括ってサンプル集を付属させただけである。なぜその組み方が強いのかが詳しく語られることもなければ、レベルデザインそのものに学習の動線があるわけでもない。段階的といえど一段ごとの高さはバラバラで、特に油圧をテーマにした問題集ではその落差が顕著である。三角形が補強の理想的な形であることは毎度語られるものの、油圧においては四角形が有効であることは語られない。
かつてマヌケが橋架けの面白さに積み木遊びの面白さと共有するものを見出した通り、理屈を知らなくても自発的に楽しめるものだとは思うものの、入門編として割り切りきれていない投げっぱなしの構成は粗雑に見えて仕方がない。
ちなみに、今作でも油圧における端点の仕様が語られることはなかった。
分割は座標に対して働くのか、接続した部材に対して働くのか、番号は共有なのか独立なのか、接合条件はいかなるものなのかなど、これらのルールは結果を大きく左右する重要な内容ばかりである。
3作目ともなればさすがにマヌケも把握しきったものの、説明のなさに理解が及ばず意味もなく遠回りした過去を振り返るに、これらのルールの説明は必要であるという主張は変わらない。油圧は部材、つまり手段であり目的ではないのだ。私は使い方を知らない道具を好奇心で理解するような人間ではない。
また、初学者ではなく経験者として見た場合、今作は水増しが多く単調だった。
これは入門的な難易度の低さゆえにそう感じたのではなく、バリエーションのなさと洗練不足による手応えのなさに由来している。予算にも荷重にも悩まない退屈な問題が多いばかりでなく、中には過去問の流用とも言えるような内容さえ存在している。
クリアラインを雑に下げて洗練は自主的なやり込みという形でリーダーボードに投げてしまったのだろうか?おかげで大雑把な設計でも解けるようにはなったものの、持てる限りの悪知恵を駆使して妥協した設計を押し通すような場面はなかった。今作に難問が存在しなかったわけではないが、過去2作のように心折れ膝をつきそうになるほどの問題は皆無だった。あまりのつまらなさに前作にあったような難化改題が出るのではないかと期待したがそれもなかった。
油圧節約、部材切り離し、3点分割など、前作では当たり前のように要求されたのに、今作ではほとんど出番がなかったテクニックも存在している。今作は結局その程度の手応えしかないのだ。
そして、今作最大の欠点は設計環境が前作から大幅に劣化したことである。
エッジ分割や消しゴムツールといった機能の追加や、地形や車の仕様に関する詳細の公開などは3発売記念の大型アップデートで前作にも導入された通りであり、さらに部材の重さを確認できるようになったりなどより便利に、より計算しやすくなったように見えるものの、コマンドの配置や設置の判定、処理の内容などがことごとく使い勝手に反するものになってしまっていて、かつてない頻度で操作ミスが起こりストレスの溜まる原因となってしまっている。
分割点を操作しようとして部材を生やしてしまったり、回転とアンドゥのボタンを間違えてしまったり、コピー中にアンドゥするとクリップボードが消えてしまったり、コマンドエリアが下部を圧迫して設計画面の邪魔になったり、エッジ分割のオンオフにいちいちオプションから呼び出す必要があったりなど、細かな作業が度々止められるままならなさに苛立つ場面は枚挙にいとまがない。
これだけでも既に十分なほど苛立たせられているのだが、最も酷く劣化しているのがラインツールである。
2点間に直線またはベジェ曲線を引き部材を均等に配置するこのツールは、単なる2点間の描画だけでなく部材を取り付ける端点のガイドとして利用する場面もあったり、また前作では描画後も残存することでアンドゥと合わせた微調整ができたりなどしたのだが、今作のラインツールは描画後は勝手に消え、また別の部材を配置しようとするとガイドが消え、あげく描画モードの切り替えにいちいちキャンセルの一手間が必要と、使い勝手は最悪である。
ラインツールは描画だけでなく測定にも使えるため出番の多いツールであり、しかも今作は基礎が導入されたこともあってか問題が広めなため使う機会はより増えているのだが、このような不便さのせいでスムーズな設計はままならない。
前作の設計環境が完璧だったわけではないが、手段としては十分快適だった。なのに一体どうしてこうまで酷くなってしまったのだろうか?部分的には初代すらも下回ってしまっている。
中にはiOSというプラットフォームに由来する欠点もあり、本来の評価とは切り離すべきことなのかもしれない。だが今までは設計の積み重ねに不満を抱いても、設計そのもののしにくさに不満を抱くことはなかったため、iOSの環境を考慮できる制作者が抜けてしまったのではないかと、そういった邪推すらしてしまう。今作ではクレジットが確認できないのもあって余計に疑惑の払拭が難しい。
前作の追記で述べた通り、今作のプレイは半ば無資格建築士としてのキャリアを試すための挑戦の意味合いもあったのだが、単調な問題の数々に肩透かしを食らったばかりでなく、悪化した就労環境に無駄に苛立たせられるという不愉快な結果に終わってしまった。
今回も無事契約満了に至れてよかったものの、このような体たらくでは今後の契約は難航しそうである。
得られなかった達成感はせめて綺麗な橋を目指すことで自己満足の慰みとした。とはいえ、マヌケの独力で大掛かりな変形機構を作るには限界があり、結局出来上がったのはクールでもなければエレガントでもない無難な橋ばかりだったが。
マヌケははたして無資格建築士として前に進めているのだろうか……。
追記
[ERROR] をテーマにした新ワールド “Faulty Drive” を追加するアップデートが行われたので、それに関する追記。
テーマ名は不穏だが、部材の切り離し、地形外の移動、端点の操作による判定の無効化など、本編で使用しなかったテクニックの詰め合わせといったところだろうか。
難易度は3だが盤面が平均的に広くさらに部分的な衝撃の分散が問われるため、難易度3の中ではやや難しい印象を受けた。
今作の設計思想は堅実な設計の重視なのだとしたら頷けると先述したものの、このワールドによってその予想が外れていたことを知った。
未使用のテクニックが出たのは、使用を極力排除できるようレベルデザインを洗練した結果ではなくその逆で、まとめ方の甘さゆえに入れ忘れが出てしまっただけでしかなかった。
結論は「使える仕様は何でも使え」であり、静的な指向も何もあったものではない。結局、基づくべきは物理法則ではなくいつも通りゲームにおける常識だったということだ。
それを標榜するならば、能力を行使するにふさわしい問題があるべきで、しかしながら現状では手応えがないのを鑑みると、挑戦課題の追加が現実的な可能性として浮かび上がってくる。
ただし今作は設計環境があまりに酷いので、改善なくしてそういった難問に挑みたくはないというのが本音である。
ちなみに、今回のアップデートでクレジットが追加された。
上級の役職が設定された一方、前作から比べるとプログラマーとレベルデザイナーの数が明らかに減っている。初代はプログラマーがワンマンだったがレベルデザイナーは5人、2はプログラマーが5人でレベルデザイナーが7人、そして今作、3はプログラマーもレベルデザイナーも3人である。代わりにテスターの数を増やすことでバランスを取ろうとしたのだろうか?中には過去作のメインスタッフと思しき名前もいくつか確認できる。
役職の兼任やそうとわからずカウントできていないものもあるだろうが、それでもこの人手不足は目に余る。設計思想の見えない中途半端さも、恐ろしく劣化した設計環境も、人手不足の影響とすれば納得である。