迷えるブロックの空中庭園 “reky”
歯応えは抜群だし、変化がなく単調というわけでもなかったのだが、全くやる気の起きなかったパズル。
パズルのデザインはレベルデザインだけではない。
黒いスライムのようなキャラクターを操作して、盤面上のブロックを動かし道を作り、ゴールまで辿り着けばクリアとなるパズル。
色付きのブロックは条件を満たせばそれぞれ決まった方向の決まった距離を往復することができ、またこの移動の方向と距離のルールが定められた色はスライムを通じて吸収したり別の無色ブロックに着色することもできる。
色付きのブロックを動かす条件は移動の経路に障害物が存在しないこと、プレイヤーが視認できる側面の2面のどちらかが何にも隣接していない露出した状態であること、ブロックの上にスライムが乗ってない状態の三つ全てが揃った状況に限られる。側面の2面のどちらかが露出していなければならないというルールは等角投影の環境を落とし込んだうまい設定の仕方だが、これはスライムによる色の吸い出しと着色が可能なブロックの条件にもなっている。
ブロックを移動させても、行き先で囲まれてしまい条件を満たせなくなってしまえば帰りの移動はできなくなる。このルールによってこのパズルは詰みの状況が頻繁に発生するが、幸いアンドゥ機能が用意されているので試行錯誤はしやすいようになっている。
また色付きブロックの移動は往復なので行くか帰るかの2種類の状態があるが、着色後は行きで固定になるというルールもある。なのでうまく状況を整えれば一つのブロックを長距離移動させたり、たった数個のブロックを乗り継いで遠く離れた場所まで移動することもできる。
そもそものルールがブロックと自身の移動とで考えるべきことが干渉するようにできているだけでなく、パズルのレベルデザインもまたゴールへの経路やそのために必要なブロックの移動距離とその順番、どの色をどれだけ用いるか、それが可能かどうかの考察など解決すべき事柄が多く複雑にねじれ合うように作られている。
極論ブロックの移動ができるか否かの二択が続くだけではあるので、難しいといえどもただクリアするだけならば総当たりのような地道なトライアンドエラーだけでも事足りるが、このゲームにはスライムが移動にかけた距離による手数評価も存在するので、それも込みでクリアしようとなると非常に歯応えのあるパズルとなる。
設定された手数は必ずしも最小ではないが、中にはエレガントな妙手を求める問題も存在するし、手数と問題の難易度でスコアを算出することで総スコアを競うリーダーボードもあるので、ただでさえ難しいこのパズルは本来の設計を超えどこまでも難しくなることができる。
しかしながら、このパズルはレベルデザインの完成度に反して、それ以外のデザインでパズルゲームとして重大な欠点を色々と抱えてしまっている。
中でも一番酷いのがパズルの主軸とも呼べる色のルールの設定の仕方である。色が定める移動の方向は作品共通だが、一目見てそのルールを理解できるような説明は存在せず、あくまでも経験則で色の移動方向を理解するしかない。
さらに色のルールで致命的なのが、方向が共通のルールであるにもかかわらず、距離に関しては共通のルールが存在せず問題ごとにバラバラであることだ。しかも悪質なことに、同じ色が複数存在する場合は移動距離はそれぞれ別々に設定されていて、移動距離をわかりやすく示すデザインは一切存在しない。神経衰弱をやりながらパズルを解いているようなものであり、スライムで移動させているうちに同じ色が固まればどれが何マス移動するものなのかわからなくなる。
レベルデザインにおいても中にはワープホールを多数設置した迷路のような問題もあるので、このわかりにくさは注意が至らなかった結果というよりは意図的に作り上げたもののように見える。
これらを一言でまとめるならば「不親切」である。素で十分に難しいパズルなのに、わざわざルールを隠すやり方に頼った意味がはたしてあったのか、マヌケには疑問である。
悪意によるデザインの不備の他にも、不注意がゆえに招いたであろうわかりにくさや不便さも存在している。
ブロックのスライドとスライムの移動を誤爆してしまうという操作の区別のわかりにくさ、移動は位置指定によるオート移動であるにもかかわらずアンドゥは一歩ずつ戻されるというテンポの悪さ、等角投影お馴染みの行や列や段の対応関係のわかりにくさなど、快適なプレイに反するUIの問題も目立つ。
パズルのデザインはレベルデザインだけではない。どんなに素晴らしいレベルデザインでも、それを阻害するもので満たされていれば後に残るのは達成感ではなく疲労感でしかない。