虚無の部屋 “Room of Pandora”
パンドラの箱には災厄という名の絶望と、唯一残された希望が詰まっていたという。
パンドラの部屋にあるものは……何もない。

トレーラーが見つからなかったため画像に差し替え。
内容は謎解き問題の詰め合わせといったところだろうか。脱出口の階段を上ればクリアとなる。
問題のスタイルは大きく分けて二つ。一つは脱出口が最初から見えていて、そこに辿り着くために何をすべきかを考えるパズルアクションのような問題で、もう一つは脱出口が隠された状態から始まって、それを探したり出現させるための謎解きをしなければならない問題である。
内容の割合は体感で言えばアクションと謎解きで3:7といったところ。
パズルか否かは人によって意見が分かれると思うが、私に言わせればこのゲームは “puzzle” ではなく “riddle”、つまりなぞなぞである。提示されたルールに従って解くのではなく、正解とそれを保証する理屈を考えるべきものだ。
なぞなぞでもパズルとなり得ることもあるが、この作品の場合は謎と正解が1対1の対応で、しかもそれぞれが切り離されてしまっている。それぞれの問題に関連性はなく、ある問題の解答に至ったプロセスが別のどこかの部屋で応用になるわけでもない。ゆえにこのゲームがパズルであるとは思えなかった。
だからといって、このなぞなぞが甘いわけでもない。簡単な問題も少なくないが、外部ヒントを見てもなおピンと来ないような、そんなのわかるか!と激昂したくなるようなものもある。
手がかりは確かに提示されているのだが、外部の操作や検索を必要とするような、作中のみでは完結しない解答を要求する謎解きはとても容易に答えられるものではない。

マヌケがノーヒントクリアを諦めるきっかけとなった問題。
それだけならばただの意地悪なクイズだが、このゲームで一番腹の立つことは劣悪な操作性である。
主人公の移動にポイントタップを、動かせる物体の移動にスワイプを割り当てているため、互いの挙動が干渉し合うことが頻繁に起こる。ボタンを押すだけなど操作性が一切要求されない問題もあるが、主人公の移動が必要な問題はどんなに簡単なものでもストレスが溜まらなかったことはない。
この操作性の悪さが何をもたらすかというと、気の休まる暇もないまま永遠に納得が来ないストレスに晒され続けることである。
謎解きではさっぱり解けない理不尽な問題に悩まされ、もやもやしながらも次の問題に進めば、次はゴミのような操作性と戦わなければならないパズルアクションをやらされる。ただの謎解き問題でも多少のアクションが必要なものもあるため、試行が通らないのは仕様なのかそうでないのかの区別を付けなければならない。
実際、操作性の悪さによって試行が通らずクリアに至らない問題を一つ残している。マヌケがプレイしたのはiOS版だが、5th Endingの最終問題は視点変更と回転移動の判定が重なっているためか外部ヒントの通りにやってみてもクリアすることはできなかった。
そう、この作品はストーリーや問題同士のろくな関連性もないくせ、なんと無駄にマルチエンディングなのである。エンディングの数は7と多いが分岐条件を親切に示してくれる機能は一切なく、一問一問をくまなく探索して別の脱出口を探さなければならない。よりにもよってゴミのようなこの操作性で主人公を走り回らせ物を振り回して総当たりするしかなく、どこまでもストレスの溜まる作りになっているのだ。
仮に操作性の悪さに目を瞑ったとしても、さらにこの作品がパズルではなくなぞなぞであることを受け入れたとしても、それでもこの作品が面白いかといえばやはり答えは否である。
この作品の、操作性を抜きにした純粋な謎解きゲームとしての問題点を簡潔に表すならば、文脈が足りていないの一言に尽きる。
プレイヤーに突きつけられるのはただ目の前のよくわからない何らかの記号やら数字やらと問題タイトルというぶつ切りの情報だけである。与えた情報が少なければ少ないほど何かしらの補完が必要なものだが、提示されるヒントは抽象的である。
そのような状況下で理知的なアプローチができるわけもなく、やったことといえば思いついたものをひたすら当て嵌めていくだけの作業だった。だからはっきり言って、この作品の謎解きは考えていて全く楽しくない。
パズルを称してはいるものの蓋を開ければ情報の点つなぎだったというようなことは主にポイント&クリックでしばしば経験したことだが、与えられた情報を繋ぎ合わせてもなお断片的というのは初めてだったような気がする。
なるほど、ミニマルな謎解きアドベンチャーはここまでつまらないものになるのか……。