セルフサービススライドパズルからの脱出 “ROOMS: The Toymaker's Mansion”
出口のない粗悪な迷路を作るのはあまりにも簡単だけど、そうしないのはきっと楽しく迷ってほしいからなんじゃないかな。
それぞれの部屋がスライドパズルのパネルとして分割された家からの脱出を図るパズル。出口に通じる扉のあるパネルに辿り着くのがクリア条件で、隣接していてかつ壁がない部屋間は歩いて移動することができる (上下移動には別途梯子が必要)。
歩いて移動する以外にも、主人公アンがいる部屋は空きマスにスライドして動かすことができる。彼女を動かしたい部屋まで歩かせたり、離れた場所からアンを部屋ごと運ぶことによって彼女を出口まで導いていくこととなる。
基本ルールに加え、それぞれの部屋にはギミックが設置されていることがある。大別すると、根本からルートを制限するギミック、アンの移動を手助けするギミック、連動して動くギミックの3種類で、それらは選択肢を増やすと同時に制限もしていて、パズルに奥深さを与えている。
またそれぞれの問題には模範解答およびそれを基にした規定手数が設定されている。想定通りに解き終わった際の盤面の状況がヒントとして保存されていて、該当するマスが当て嵌まると部屋の背景に色が付く。つまり想定通りに解けた場合は部屋全体がカラフルに彩られる形で終わる。
ただし、同じ手数でも別解が存在したり、想定よりも手数が縮まることすらもあるので参考程度といったところ。手数評価はエンディングに関わるのでできれば達成するのが望ましいが、達成できなくてもクリア扱いにはなる。
レベルデザインは手持ちのルールを無駄なく絞ったものばかりで、いたずらに盤面を広げたり乱暴にダミーのパネルを置いたりすることのないスマートな設計は素晴らしい。
だがそれ以上に、スライドに関する最も基本的なルールの作り方がうまかった。地下室というおまけ問題集の一つに、通常とは逆にアンのいる部屋以外がスライドできるというルールの問題集があるのだが、それらが総じて簡単だったあたり、スライドのルールをアン中心に絞ったのは正しかったと言える。
しかしながら、パズルの難易度は手数制限に大きく依存している印象を受けた。解決の難しいねじれの枠組がないわけではないが、手数を減らす労力に釣り合っていない。手数が詰められないことで悩むことはあれど、そもそも解けないことで悩むことは全くなかった。
こうなった原因として、少なくとも余白の広さは否定できないだろう。余白があるということは、部屋のスライドにかかわるギミックに関して選択肢が広く取れるということでもある。選択肢の広さだけが先行した結果、ただ解くだけならば簡単だが、手数を詰める段階となると広い選択肢が絞り切れずに残ってしまい、ゆえに途端に難しくなったように感じてしまうのではないだろうか。
部屋に色を付けるというヒントができたのもこのためだろうか?手数を詰めることの圧倒的な難しさを理解していたから、ある程度見当を付けられるようにしたのではないかという邪推さえしてしまう。
とはいえ、あくまでも手数制限を加えた場合に難易度が跳ね上がるというだけであって、素の難易度も決して低くはなく、スマートなレベルデザインのパズルゆえ単調ではないし、問題数の多さの上でもその内容はおつまみパズルとしてちょうどいい。スライドの際に毎度ご丁寧に部屋がガコンと動くテンポの悪さが少々気になるが、手数込みでのプレイで得られる達成感も加味すれば気にならなくなってくる。
今回はアンドゥが必要ない難易度で済んでいたからよかったものの、もし最低でも結構な数の手数を踏ませるような巨大な盤面や複雑な盤面を出したりするようなことがあれば、このテンポのままだといずれストレスのほうが上回るかもしれない。
追記
UIの改善およびデイリーモードの追加、そしてDLCではあるが各マンションに対応した高難易度版問題集 “The Attic” が追加される大型アップデートが行われた。
デイリーパズルの問題は自動生成なのだろうか?クリア不可能な問題が出てきたことがあったので内部の処理が気になるところである。
まあ仮にどんな仕組みであったとしてもこういったルーチンワークで解かせるパズルの内容はたかが知れているので言及は避けるとして、ここでは屋根裏部屋の内容について詳しく述べたい。
この問題集では本編における大きな欠点の一つだった、難易度を上げる方法を手数制限に大きく依存していた点が解消された。やはり余白の広さが悪かったのか、このDLC問題集において余白は最小限にまで削り取られている。もちろん本編と同様に、盤面のサイズを広げたり、作業的な手順を多く踏ませることで遠回りをさせるような小細工は一切ない。当然手数を詰める段階で手こずることもあるが、本編とは打って変わってその頻度は逆転していた。
マヌケの悩まされっぷりたるや、念願のアンドゥが追加されたにもかかわらず大して使わなかったほどだ。やり直すと都度部屋が再構築される演出が入るので本来ならばテンポを害するだけなのだが、1手戻すよりも頭を冷やす意味も込めて最初からやり直すことの方が多かった。
この問題集は、何かを動かせば何かが詰まるというスライドパズル特有のもどかしさを存分に味わうことができる。
手数抜きで十分に歯応えのある新問を100問も用意した制作者には感服せずにはいられない。お手軽なパズルから歯応えのある難問まで幅広く遊べるスライドパズルとして、文句なしの良作に仕上がったと言えるだろう。