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パズルゲーム感想アーカイブ

大海の夢も池辺の泥濘に “Tengami”

大事なのはキャンバスではなく、描かれたもの。

枯れた桜を咲かすべく、各地を巡り桜の花を集めていくのが目的だと思われる謎解きアドベンチャー。断言できないのはストーリーについての説明がゲーム内外のどこにも一切ないからである。要は多くを語らないゲームの一つだということだ。
開くと絵が飛び出す細工が施された本、いわゆる仕掛け絵本のような作りをしていて、作品の舞台や背景もそれに見合うような和風のテイストが随所に盛り込まれている他、この仕掛け絵本風の作りは謎解きそのものにも組み込まれていて、折り畳んだりめくったりといった動作がそのまま謎を解くための鍵となることもある。

だがそれらがパズルであるかといえば、そんなことは全くない。やらされる謎解きの内容は法則が簡単に見破れてしまうような簡単な仕掛けの他には、各地に描かれた手がかりを集めて見てきた通りの情報を入力するだけという探し物に等しいことしかない。見つけてきた情報の組み合わせ方を考えたり、対応関係を調べるような思考過程が求められることは一切ない。

ならばパズルではなくアドベンチャーとして楽しめるかといえば、その点でもそんなことはなかった。仕掛けを起動させたり謎解きの手がかりを集めるには各地を移動する必要があるのだが、この移動が遅いためテンポが悪いのだ。ストーリーや謎解きの量自体は大したものではなく、ほとんどの時間はのろのろ動く主人公を眺めるだけである。
反応のあるオブジェクトが可視化されているため総当たりであちこち触って回る必要がないのは数少ない評価点の一つだが、手がかりの隠し方自体が親切なわけではないので、一度探した場所でも改めて探しに戻ったりすることもあり、移動の遅さはゲームのテンポに対して最悪の形で噛み合ってしまっていた。作品の短さに対して感じた苛立ちは密度でいえばかなりのものである。

ではいっそのことゲームの面白さよりも作品の舞台や雰囲気の描写に焦点を絞ってこの作品を振り返ってみても、その点でもやはり微妙だった。
力を入れたであろう作品世界を構成する和のテイストだが、どうにも安っぽいイメージを拭えない。和紙で作ったというよりも、和紙を厚紙にでも印刷したかのような質感だし、細部のエッジ処理も画一的である。
和紙にこだわっている割に作中に火が飾りとして出てくるあたり、和の心の神髄たる調和を本当に大事にしているのかはいささか疑問である。ただ素材に惚れ込んで飾りつけに使っただけのような気がしてならない。

この作品は外面ばかりで中身がないゲーム、私が散々嫌っている雰囲気ゲーそのものだが、外面も考慮するとそうですらないとも言える。