磁力塔大滑落 “Teslagrad”
マルチ展開においてプラットフォームの差を埋めることは大変ではあるけど、この作品は自身が持つ最大の魅力を損なうという一番やってはいけないことをやってしまった一例である。
同じ色なら反発し異なる色なら引き合う、いわゆる磁力を主軸としたゲーム。
暗い雰囲気とはいえ物語はおとぎ話の絵本のような柔らかなタッチで描かれているが、ゲームの内容はその見た目に反してスピーディでスタイリッシュである。
磁力はパズルとして道を塞いでいるだけではなく、それ以上に自身のアクションの礎となっている。
磁力を抜きにしたアクションは左右の移動とジャンプ、そして左右の一定距離だけ途中の物体を無視して瞬間移動するテレポートだけだが、これに磁力による引力を乗せることで、遠く離れた足場まで勢いをつけて大ジャンプしたり、手が届かない高台まで浮いて行けたりする。
ただし、このゲームはかなりアクションに偏っている。体力などなくミスすれば即死で、ステージの至る所に致死のトラップが仕込まれている。幸いやり直しはしやすいが、その内容はいわゆる死にゲーで、レベルデザインもそれを意識してか解かれるべき謎よりも避けるべき危険を重視して配置されている印象を受ける。
ゲームの主軸となる磁力もまたパズルとして調整されたというよりは、自らが手懐けるべきアクションのツールとして設計されているように見受けられる。磁力はどの物体にどの程度の力が加わるのか、大きさや形などにその法則は見えず曖昧で、さらに磁力は非線形なのかあるいはばらつきがあるのか読みにくく、その制御は何度も目測を誤るほどに難しい。この独特な磁場の性質を利用したテクニカルなアクションが模範解答ということもある始末である。
磁力によってパズルのように解決すべき事柄を入り組ませることよりも、危険と隣り合わせの環境で複雑な磁力系を支配できるか否かが設計思想のように思える。
解決すべき事柄を複雑にしようとすることに関してそもそも積極的でなかったことは、マップ構成にも表れている。
このゲームはメトロイドヴァニアなマップを採用していて、それぞれのステージは区分けされていながらもシームレスに接続しているが、その構造は塔の中央の大空洞を中心として、空洞内の行ける場所に入り口を置き、行けない場所に出口と道を塞ぐ天板を消すスイッチを置くという一本道の繰り返しで、真にメトロイドヴァニアと呼べるほどの複雑さはなく単調だった。
能力強化によって先に進めるようになる場所はあるが、どこも収集要素が置かれただけの行き止まりの脇道ばかりである。この収集要素もかなり意地悪な隠し方があるという欠点があるので、探索の面白みという点でもメトロイドヴァニアらしさはない。
それだけならば、レベルデザインが単調かつ不親切だがユニークなアクションゲームという感想で終わっていただろう。
しかしながら、マヌケがこのゲームをiOSでプレイしてしまったことで、バーチャルパッドの欠陥のせいで操作性が最悪なアクションゲームという印象が強く残ってしまった。
制限の多いプラットフォームを選んだ以上、バーチャルパッドでは多少の操作性の劣化は許容すべきとマヌケは思っているが、このゲームのバーチャルパッドの酷さは多少で済むようなものではなく、存在そのものを許しがたいほどだった。
まずジャンプとテレポートのボタンの割り当てが同じことからして意味不明なのだが、さらに磁力や道具の切り替えなどのボタンをジャンプボタンを囲むようにまとめて配置していて、操作ミスの温床となっている。
ジャンプとテレポートが同じボタンに割り当てられてそれぞれの発動できるタイミングが限られてしまった結果、他プラットフォームでは簡単に行えるであろう「磁気を帯びてジャンプ→テレポート」という一連の操作も、この操作方法に従うと「ジャンプ→磁気を帯びる→テレポート」と忙しい操作を要求される (先に磁気を帯びるとジャンプができなくなる) のだが、さらにボタンが密集しているせいでジャンプが磁気を帯びる操作に化けたり、磁気を帯びようとして道具を切り替えてしまったりなど、思い通りにならないことが多々起こる。
そしてその結果、このゲームの特徴であり魅力でもある磁場を活用したユニークなアクションは、あらゆる側面においてユーザーアンフレンドリーな腹立たしいアクションへと堕ちるのである。ただでさえ独特の慣性が働くゲームで、操作性が悪くて一体どうして楽しくプレイできようものか。
その酷さたるや、クソゲーと呼ぶのも辞さないほどだが、あくまで移植に難があっただけで本来はここまで酷くないはずだし、なにより一切の危険が取り払われた環境で自由に動き回れた時の心地よさは間違いなくあったので、そうとは呼びたくない気持ちのほうがわずかに勝った。
プラットフォームに似つかわしくないゲームでも、プレイに足るという制作者の判断を信じてマヌケはプレイするのだが、結果として裏切られた形である。
iOSへの移植に際して、バーチャルパッドのデザイナーがどうしてこれでいけると思ったのか、テスター達はなぜこれでいけると思ったのか甚だ疑問だ。