闇夜を駆けるストリートアーティスト “Vandals”
“vandal” とは文化や公共物の破壊行為を指す英単語だが、自身すらも蛮行の対象として自壊するとは思わなかった。
トレーラーが限定公開なのが気がかりだが、公式サイトで公開しているので共有可と判断してここでも紹介させてもらう。
警察の目を掻い潜り、スプレー缶で建物の壁や塀などに落書きを残していくターン制パズルである。
ストリートアートはグラフィティとも呼ばれる芸術の形態の一つで、作中では簡易ながらもプレイヤーが自由に描くことができるが、パズルとしてはタイトルの通り器物破損として警察との追いかけっこの名目となっている。犯行前でも警察にその身を晒せばお縄になるあたり、迷惑な落書き魔として面が割れているのだろうか。
ターン制パズルということで、主人公が行動を起こすと警察がそれに対応した行動を取るというやり取りがクリアするまで繰り返される。クリア条件は定められた場所に絵を残してからゴールに辿り着くことなので素通りは許されない。
主人公は移動とおびき寄せの口笛を基本として、特定の場所で対応したアクションを行うことができる。グラフィティのためならマンホールだって通るし金網だって切るし、瓶を拾えば投げてデコイにしてしまう。
対する警察もまた様々な警備態勢で主人公を待ち構えている。熱心にパトロールして回る者がいたり、警察犬を連れていたり、中には居眠りをしている者もいる始末ではあるが、彼らは能力と人員をもって目的地までの道を抜かりなく封鎖している。ただし、異変を察知すると彼らはそこへ移動するようになるので、主人公はその性質を利用してスニーキングしていくこととなる。
ターン制パズルは往々にして偶奇性を合わせる作業になりがちなのだが、警察の範囲制御と誘導によってそれだけでは済まない骨のあるパズルになっている。偶奇性は警察の数だけ重なり合うため、歩調を合わせるよりも彼らをまとめて掻い潜るためのルートが重要となる。
このパズルは単純にクリアすることとは別に3種類の評価基準を設けていて、最高評価を目指したプレイではさらに歯応えを増す。それぞれターン数と特定の地点の経由、警察に捕捉されてないかどうかだが、個別の達成ではなく同時達成を求められる。
全ての問題の規定ターン数が最小というわけではないが、ターン数を減らすのに反復横跳びよりも大胆なルート変更のほうが有効だったりなど、発想の転換を求めるエレガントなレベルデザインも少なくない。
等距離で分岐の優先順位が不明という一部ルールの不明瞭さや、警察の処理は俗に言うトレインのような一纏めにおびき寄せる手法が通りやすいという欠点もあるが、それでもレベルデザインの出来はそれらを覆すほど十分である。
しかしながら、そんな素晴らしいレベルデザインを帳消しにしてしまうほどの欠点も存在している。それは視認性の悪さと処理の重さというシステムの不備である。
縮尺は広域まで広げても問題全体を包囲できないくせ任意の場所を映す機能はなく、画面外にボタンがはみ出してしまうと押すのも一苦労である。画面外のボタンをピンチインで無理やり押そうとして移動に化けたりなど、誤操作の元にもなっている。
そして処理の重さだが、主人公や警察の一挙手一投足をこだわった影響か、次の入力を受け付けるまでが長いため、ターン制パズルでありながら鈍重な操作性になってしまっている。うっかり先行入力してしまえばラグで先のターンに反映されてしまうので、これもまた誤操作の元である。
素晴らしいレベルデザインが詰まっているのに、劣悪なシステムがやる気を削ぐというあまりにも残念なパズルだった。
どんなに素晴らしい中身を作ったところでそれを動かすものがポンコツなら全てが台無しである。プログラマーはレベルデザイナーに土下座すべきだ。