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パズルゲーム感想アーカイブ

精神を呼び覚ます悟りの雫 “Quell Zen”

色彩に溢れた世界の先に待っていたのは、本当の思い出だった。

滑る床をルールとしたパズル、Quellシリーズの4作目。
私にとってのこのシリーズの始まりは国内向けローカライズ作品のShizukuだったが、ここでようやくオリジナルのシリーズにバトンタッチとなった。

今作では前作の反省を生かしてか、ギミックは変わらず多いものの、Quell Mementoで顕著だったギミック偏重による難易度の低下はあまり感じられなかった。
最小手数の達成が全体的に簡単だったのでやり込みを含む難しさでいえばやや手応えに欠けるものの、裏を返せば今作は手数制限による難易度上昇に頼らずにパズルとしての難しさを純粋に追求した作品と言える。
どのギミックも組み合わせ方や配置を工夫することで順序の逆算を難しいものにしているので、前作のように一目盤面を見ただけでゴール地点と中継地点が勝手にわかってしまうことはない。当然進行度に似つかわしくない簡単な問題も存在するが、割合でいえばそれらはちょうどいい小休止として作用する。

作品そのものの評価にはあまり関係はないものの、今作では最小手数未満を達成できる問題が多かったのが印象的だった。
アクション要素による割り込みを行うことで可能となるこれらは隠し実績 “Better than us” として1作目から存在していたが、今までの場合は達成できるのは各作品でせいぜい数問 (私が達成した分はQuellで1問、Quell ReflectおよびQuell Mementoで3問) だけだった。
しかしながら今作は11問で達成、しかも豪快に手数が減るので随分とハードルが下がったように感じた。仕様の穴を突かずとも達成可能な問題もあったあたり、意図的にこの存在を公にしたかったのだろうか?

そして大変驚いたことに、この作品にはQuell Mementoの3DS移植作であるShizuku Memoryの問題が逆輸入されていた。
Shizuku MemoryにはQuell Mementoにない “Memento” という問題集があり、そこにはQuellおよびQuell ReflectのSecret8問が収録されているのだが、残りの8問については出典がなかった。そのため今作以外のQuellシリーズ3作をプレイした後は自らの記憶を疑ったものだが、今回Quell Zenをプレイしたことにより、それらがShizukuシリーズオリジナルの問題だったことが明らかとなった。
発売順 (Quell Memento: 2013年5月、Shizuku Memory: 2015年4月、Quell Zen: 2016年7月) を鑑みても、つまりこれはShizukuシリーズがただの移植作ではなかったということである。
Quell Zenへの収録にあたりギミックやレイアウトに些細な変更が入った問題もあるが、それらは間違いなく思い出の中にあった問題であり、プレイした時の感動はShizukuシリーズのプレイ経験がなければ味わえなかったものだ。

(Quell Zen: Tranquility 1-3 “Singles Night!”) 大量のカップルブロックと木製スパイクが所狭しと配置された問題
Quell Zen: Tranquility 1-3 “Singles Night!”
全てを思い出すきっかけとなった一問。Shizuku Memoryでの問題タイトルは “The Law of Attraction” だった。

今作はギミックを多数導入した滑る床のパズルとして確かな良作だった。
私はギミックに頼らないストイックなパズルのほうが好きなので、手数制限も加味するとQuellおよびQuell Reflectに軍配が上がるが、今作のようなビビッドなパズルが好きな人にはこちらのほうが刺さるのではないだろうか。

余談だが、もし次があるとしてこのスタイルを続けるなら、日本語訳はまともな翻訳家に頼んでほしい。
鼻につくステレオタイプなアジア観ではあるものの、今までの作品のような退廃的な雰囲気とは打って変わって明度と彩度の高い静謐な雰囲気もQuellの彩りに合っていると思っている。でもあの機械的な日本語訳問題タイトルは流石にミスマッチが過ぎた。

関連項目

Quell Puzzle Anthology収録作品

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