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パズルゲーム感想アーカイブ

軽快から挑むフック&リール “SiNKR 3”

3作目にして遂に簡単とは言えなくなってしまったマヌケだが、特徴たるテンポのよさがトレードオフになるならば、それははたして喜ばしいことなのだろうか?

フックの付いた紐を巻き取ってブロックを引っかけることで枠まで運ぶパズル “SiNKR” のシリーズ3作目。
前作までのルールを全て引き継ぐと共に、今作ではグリッドからさらに斜め方向に補助線が引かれ、ルートの選択肢が広がっている。ルールの変更なく純粋に難易度上昇だけを図っていた2から比べると大きな変化である。

前作がそうであったように、今作もまたチュートリアルは少なく、最初からテクニカルな問題が満載である。
ただし、今作ではレベルデザインの枠組としてフォーカスされる内容が異なっている。今作における大きな変化である斜め方向の活用は勿論のこと、ニュートンのゆりかごのような、何かにぶつかることで自身は止まりながらぶつかった物を動かすというテクニックがピックアップされている。
滑る床のパズルの趣向を強めるこの作用は今までも存在していたルールなのだが、マヌケは今作でようやく認知したほどにその印象は薄かった。レベルデザインへの反映がなかったからか、あるいは誤解を招かぬよう意図的に排除されていたからか……いずれにしろマヌケが意表を突かれたのは間違いない。

それらはレベルデザインに遺憾なく反映されていて、見かけの選択肢を広げつつ筋道を細めるという順当な難化に繋がっている。
特に衝突物は位置を0.5ずらすので、方向転換に1ずれるフックでは拾えない位置に配置されると、そこに物を打ち込む方法と打ち込んだ物を回収する方法とでセットで問われることになる。0.5のずれは今まであまり気にすることがなかったことだが、今作ではその差が大きく関わることとなってくる。
広がった盤面に狭い筋道と絡み合う枠組、ずれの補正のために踏むべき手続きの順序など、アクションや細かいルールを悪用した割り込みに依存することなく綺麗に難化させてみせたのは見事だった。
前作をプレイした時は、難化には物の操作の順序をより厳密に問うしかないと思っていて、その予想はある程度当たってはいたものの、その手段はアクション等に問うしかないという予想に反してずっとエレガントで、そこに邪悪になり得るエッセンスは皆無ではなかったもののほとんど存在しなかった。
また、今作ではようやくアンドゥが実用的なものになったので、操作の上でも隙がなくなっている。長く巻き戻せるだけでなく、リスタートも含めて巻き戻すことができるので、難化に伴い頻度の上がるうっかりミスに溜め息をつくこともなくなった。

しかしながら、パズルとしてねじれた反面、一つ一つの手続きにこまごまとした手間がかかるようになって、このパズルの長所だったサクサク解けるテンポのよさが失われてしまったように感じた。特定のラインに合わせる、特定の個数だけ取り分ける、1個ずつフックを使って受け渡していくなど、それらの手続きの一つ一つが厳密で、今作ではざっくり一気に紐を巻き取ることは難しくなっている。
パズルのねじれはマヌケとしては喜ばしいものの、これはマヌケが気に入っていた元来の魅力、単調に堕ちないテンポのよさとトレードオフであり、両立し得ないという事実は堪えた。

期待を大きく超えた素晴らしいパズルではあったものの、それがシリーズの魅力を犠牲にしなければ得られない以上、それは望ましいと言えずパズルの奴隷として複雑な心境になる作品だった。
いずれにしろ、邪悪になり得る要素を多く抱えていながらエレガントであろうとしたそのバランス感覚は間違いなく、その姿勢をもってどちらに転んだとしても少なくともこのパズルが迷走することはないだろう。
過去作のトレーラーが消えているのが不穏ではあるが……多分大丈夫だ。

関連項目

SiNKRシリーズ作品