ヘビが重力に打ち勝つプロセス “Snakebird”
なぜ美しいのかを理解することは難しいが、美しいかどうかを判断することはできる。
この作品のパズルのレベルデザインは、美しい。
エサを食べると1マス分体が伸び移動した通りに後続のパーツが動くヘビゲームが、パズルゲームとして2Dプラットフォームと融合。
盤面上のフルーツを全て食べ尽くした後、指定のゴール地点に全てのヘビが辿り着ければクリアとなるパズルである。
問題数は全部で53問と決して多くはないが、一問一問が非常に洗練された完成度の高いレベルデザインのパズルである。
このパズルには大きく分けて四つの難しさがありこれらが複雑に絡み合っているため、丁寧に紐解いていこうとしなければいくらやみくもに動かしたところで解けはしない。
一つ目はヘビゲームに由来するヘビの性質そのものだ。
アンドゥ機能はあってもバックはできないため、後先考えずに動かそうものならヘビは簡単に詰まってしまう。このパズルでは尾の位置に頭を動かすウロボロス移動ができないため、特に長さ3のヘビが安直にフルーツにかぶりつこうものならまず間違いなく身動きできなくなって詰まってしまうことだろう。
二つ目はプラットフォームゲームであること、つまり下方向の重力があることだ。
パズルプラットフォームとしてごく当たり前のことのように思えるが、これが引きずるものがあるとなると実は想像以上に厄介な存在となる。
このパズルは甘い解答を潰すべく基本的にトゲだらけなので、どのタイミングでどこに接地するかをしっかり考えて動かす必要があるのだが、変形途中で落下することを考慮に入れなければならないため、ヘビゲーム特有の従属する挙動の逆算は想像以上に難しいものとなっている。そのための転回スペースをどう確保しそこでどう動かすかを考えたり、途中でエサを食べて伸びることも考慮に入れるとなるとなおさらである。

ヘビの挙動の逆算の難しさを物語る一問。
この問題を、ヘビの挙動を完全に理解し逆算して解いた人は少ないのではないだろうか?
おそらく大半の人は私と同じように、気づいたら解ける形になっていたのではないだろうか。
三つ目は二つ目と同様にプラットフォームゲームに由来するものだが、下から上への移動は難しいという点だ。
パズルプラットフォームでは主軸として据えられることの多いこの要素だがこのパズルでも例外ではない。落ちるのは簡単だが重力に逆らうには労力がいるもので、上方向への移動はヘビの長さを合わせて段差を登るか、あるいは別のヘビに押し上げてもらうこととなる。
またこのパズルでは押せるものは複数まとめて押すことができるため、特にブロックのような押す以外に動かす手段のないものなどはいかに落とさず押し上げるかが重要になってくる。
そして四つ目は向きの重要性だ。
足場は最小限しかないため後で戻って来れるように動かす必要があるが、遠く離れたフルーツを食べるためには一方のヘビに自力では戻って来ることのできない伸び方をしてもらわなければならないことがある。
この状況をいかにリカバリーするかはもちろんのこと、そもそもそのような配置をする必要があるのかどうか、必要がなければどうやって自力で戻れる配置にするのかなどを考えなければならない。
目的の向きに揃える下準備のためにさらなる下準備が必要、と逆算そのものが枠組の一部に組み込まれる難しさは並みのパズルにはないものだ。

序盤の難問。長さ4のヘビをどう使うかがポイント。正解に至るまでに考慮すべきことは多い。
レベルデザイナーの苦心により、以上の枠組を合わせた構造からさらに安易な逆算を潰す形の罠が綿密に張られ、さらに猶予として与えられる余白が最小限にまで削り取られたことで、この作品は芸術的とも言える美しいパズルへと昇華している。
安直な思考にはもれなくトゲが先回りで配置され、うっかり飛び込みたくなる通路はそのまま突っ込んでしまえば例外なく行き止まりで、このヘビが反対方向を向ければ解けるのにと思っても反転するためのスペースがあと1マス足りず、解けた!と思ってもそれは正解に一歩近づいただけでまだ考えるべきことが残っている。
そんな苦労の果て、試行と思考とひらめきにより手繰った細い筋道の先に辿り着くエレガントな正解は、そのために強いられた不自由の末に得た解放感もあって多大な達成感をもたらしてくれる。
このパズルはレベルデザインの金字塔とも言うべき作品である。