未来への追憶 “The Gardens Between”
パズルはおまけ。本命は思春期前の追想である。
雷雨のとある夜、木の上の秘密基地で、二人の子供、ArinaとFrendtが塞ぎ込んでいた。そんな二人を不思議な光が包み込み……気がつくと、彼らは幻想的な謎の島にいた。そこは二人の記憶にある物で溢れた島。まるで、自分達の思い出を綴っているかのような……。
このゲームは、思い出の島々を巡る彼らの旅を導くパズルアドベンチャーである。
プレイヤーが操作するのは時の流れと、二人に対応したギミックの操作指示を出すことだけである。つまり、このゲームは因果関係の操作を大枠としている。
クリア条件はArinaが持つカンテラに光を灯した状態でこれをゴール地点まで持ち運ぶことであり、この光の操作が枠組となっている。時の流れに沿って二人はゴールを目指して思い思いに走っていくが、島の時間軸と光を保持しているか否かによってステージの構造は変わり、それによって二人の行動も変わってくる。
ステージの構造を変えるためのギミックの操作を行うのは主にFrendtの役割で、光を放ったり吸い取る花の開閉のスイッチを押したり、島の時間軸とは別に特定の物体の時間軸だけをずらすダイヤルを操作することができる。物の状態が変われば過去の分岐にも影響が出て、そこまで巻き戻って再生し直せば結果的に未来が変わる。
ゴールまで光を運ぶには彼らの行動を観察して、適切なギミックを適切な順序で操作させていく必要がある。時には彼らの無意識の行動そのものや島を構成する物そのものがステージに影響を与えることもあるので、ギミックを起動するか否かだけで光を操作する単調なゲームではなく、全体の推理が必要な謎解きゲームとしても成り立っている。
そんなこのゲームの内容は、自称パズルの多いパズルアドベンチャーでありながらも、積極的にパズルと呼べる。
序盤はカンテラをセットさせてスイッチを押させて時を巻き戻すだけの単調な内容だが、ステージの構造が複雑になっていき謎解きが加わるとそうは感じなくなっていった。
光の操作は歯応えがあるわけではないが、単純な逆算で済むほど甘いわけでもない。謎解きも詰まってしまうようなものもあるが、解ければ納得できるし、大半の謎解きは自然と導き出せるようになっている。特に、二人の行動が関わる謎解きは彼らの好奇心や性格が反映されていて面白い。
ただ、パズルの内容の面白さに反してテンポが悪いように感じた。時間は等速以上に早回しすることはできず、しかもその等倍速度もワンテンポ遅いため、妙な鈍重さを感じてしまう。このパズルはアクションを起こせる場所を行き来する必要がある関係で、ゲームスピードの遅さはパズルのテンポに大きな影響が出てしまう。一度ミスしてしまうと結構な距離の往復を余儀なくされるが、巻き戻しすらもスムーズに行えないのはあまり気分のいいものではない。
速度の遅さに時の流れを惜しむ表現を込めたり、行ったり来たりの多さに思い出とのリンクを入れたりといった演出上の意図もあるのかもしれないが、それを考慮したとしても早送りを取り上げる必要が本当にあったのかは疑問が残る。
大人になってから振り返るならまだしも、一日も早く大人になろうと背伸びをしたがる年頃の日々は、たとえその瞬間は明日を望んでいなくとも、強弱のはっきりしたアクティブな時の流れ方をしていると思う。
とはいえ、思い出の追体験という物語の表現が全編を通して素晴らしい出来であることは確かである。
同じ島を歩き同じものを眺めているはずの二人も、見せる反応も積極性も全く異なっていて、違いを見ていくと言葉がなくとも二人の性格や考え方の違いが浮かび上がってくる。
彼らはお世辞にも行儀のいい子供とは言えないが、思い出はどれも彼らの日常または非日常に過ぎず、一般的に見て劇的な何かがあったわけでもない。赤の他人の思い出なのに、それらがかけがえのない存在として輝いて見えたり、時には苦い思い出に映って見えたりと感情移入してしまう。
操作するものに時間軸を指定したことも、パズルの操作方法として以外にも、ただ眺めるだけの凡庸な進め方ではなく自分で演出を決められるという意味で面白いルールだった。
とある出会いと別れのストーリーというありふれた、だがそれゆえにノスタルジーを呼び起こす内容は感動的ではあったが、物理的な距離は精神の距離をいともたやすく引き離してしまう。記憶は永遠でも、関係は永遠ではないのが人間関係の残酷なところである。
あの二人は、これから先どんな人生を歩むのだろうか。