m-log
パズルゲーム感想アーカイブ

窮すれば通ず “Unit 404”

狭まっていく盤面、狭まっていく思考。
一歩ずつ、一歩ずつ、じわじわと。

主人公のロボットに移動指令を出したり、一定のルールに従って引き寄せられるブロックを操作して足場を作ったり動かしたりしながらゴールまで導くパズルプラットフォーム。
まるで「回」の字のような緑のブロックがメインギミックで、指定すると上下左右の同列にあるブロックを同時に1マス分引き寄せる。引き寄せは4方向分同時に働くが、1方向につき引き寄せられるブロックは指定したブロックに最も近いブロックだけである。また、ブロック同士が隣接してしまうとそれらは操作不可の「」の字のような赤のブロックとなる。あくまでも「」は操作の指定ができないだけなので、「回」による引き寄せは「」にも有効である。引き離されて隣接関係が解消されれば「」は「回」に戻る。
また、主人公は操作キャラクターというわけではなく、ブロックと同じく指定の対象の一つにすぎない。平坦な場所で指定すれば進行方向に壁や段差に差し当たるまで進み、壁に面した状態で指定すれば向きを変え、段差前で指定すればどんな高さでも段差を降りる。
主人公は自力で段差を登ることはできないので、パズルプラットフォームであることは間違いないが、操作するのは自機ではなく盤面なので一般的なそれとは趣向の変わったパズルだと言えるだろう。一度指定を入れるとそれによる盤面の変化が終わるまで次の指定は入れられないので、アクションによる割り込みを考慮する必要もない。

「回」だけで組み上げられた問題も十分に難しいのだが、ブロックは「回」の他にも引き寄せなどの操作を加えることで操作後に指定の方向に1マス勝手に移動する移動ブロック、周囲8マスのブロックを決められた方向に90°回転させる回転ブロックなどが加わることで、このパズルのルールはそれ自体が既に強いねじれを生んでいる。
主人公は操作キャラクターではなく制御すべきパラメータを持つ一介のギミックであり、移動ブロックはギミックであると同時に目的の位置まで動かすための機構を要求するという相互のねじれを生み、回転ブロックは盤面の制限を根本から覆すポテンシャルを持つ。
たった1手でもその後の結果が大きく変わるほどに互いが互いを制限し合うねじれたルールで、さらにレベルデザインもまた練られていてこのパズルは二重のねじれを持っている。狭まる盤面から脱するための一歩はどの問題も巧妙に隠されていて、途切れた道同士の移動経路の確保、主人公の方向転換、ブロックを引き寄せる導線の確保など、考えることは多く複雑である。
見た目の上でもパズルの難しさの上でも、狭まる盤面を前に終始柔軟であり続けるのは難しかった。

ただ、ルールが持つ強烈なねじれはプレイヤー以上に制作者の手に余っていたように見える。
メインギミックの操作が引き寄せなので、狭まっていく盤面への対処がこのパズルの枠組であり、そこからいかに華麗に脱するかが設計思想だったように見えるが、盤面の制限を覆す他のギミックが取り入れられると、一転してブロックの指定順の一つ一つを積み重ねて地道に抜け出すパズルという見た目通りに窮屈なパズルになってしまっていた。
発想の転換を求めるエレガントな良問に膝を打つことは少なくなかったが、解法のテーマを同じくする水増しのような問題があったり、また回転ブロックの問題などは一歩ずつの地道な開拓が必要な一意でない解答を要求する問題が目立ったりと、歯応えはあれども達成感に欠けるような、泥臭い問題もまた少なくなかった。

本来なら、レベルデザインのブレなどという曖昧なものは気にすべきことでもないしプレイしていて気になるものでもないのだが、なぜ目に付いたかといえばこれと強く連動する欠点が存在するからだ。それはアンドゥ機能の不在である。
アンドゥの不在によって不必要に難しくなっている問題の存在は否定できない。一つの考えに固執させないためにアンドゥ機能を設けないという判断も時には有効だろうが、そのためにはアンドゥを取り上げることで難易度が変わらないという前提が必要だろう。このルールは手順が一つ違うだけで全く別の結果になるため、それが積み重なれば思考の再現にも支障をきたす。特に回転ブロックが絡み合う問題などで顕著だった。
技術的な問題もあるのでアンドゥはあって当然とは思っていないが、このゲームは盤面操作でありながら一つ一つの動作が遅くテンポが悪いため、アンドゥを設けないのであればテンポの改善は必要不可欠だった。

ルールのねじれを御しきれなかったこととテンポの悪さによって諸手を挙げて良作と言えるわけではないのが歯痒いが、マイナスの操作からプラスの結果を得るという逆転の発想をできる限り追求したパズルであることは間違いない。
盤面は狭くなるばかりなのだから逆算も容易かと思えばそんなことはなく、盤面が狭まると同時に思考も狭まっていく。状況に連動して窮屈になっていく思考と、ひらめきがもたらす雁字搦めからの解放の達成感はまさしくパズルの面白さそのものである。

関連項目

Best Foods to Boost Your Brain収録作品