正四面体による新しいスタンダード “YANKAI'S PEAK.”
ラブレター不在の三角世界。角が取れた優しい世界。
盤面の最小単位が正三角形で動かすブロックは正四面体と、色々とユニークな倉庫番ライクなパズル。
操作できるのは青い四面体ただ一つだけで、全ての色付きの枠にそれぞれ対応する色の四面体を運べばクリアとなる。
この物珍しい形状に由来する移動形式と、それによる独特の作用関係がこのパズルの大きな特徴である。
操作キャラクターの移動は接地している面のうちの一辺を軸とした180° - (面角) の回転移動と、指定した頂点から伸びる接地面に対する法線を軸とした60°の回転移動の2種類である。こうして文章で書くとややこしく聞こえるものの、実際に動かしてみると操作キャラクター単体だけでいえば見た目から予想できる通りの単純な動きでしかない。
だが自身の移動で作用を受ける四面体が出てくると、その動きは一転して読めなくなる。
操作キャラクターでない四面体に対して辺軸回転をしようとすると移動を拒否されるだけだが、法線軸回転では位置関係によって様々な作用を見せる。
例えば、▽▲▽▲ (▽: 空きマス ▲: 四面体) というような盤面があったとして、右の四面体が上の頂点を中心に60°時計回りに回転すると、左の四面体は一致している頂点から作用を受けることで回転移動してしまい、盤面は▼△▼△のようになる。
位置関係によって移動のパターンも変わる他、さらにややこしいことにこの作用は隣接関係にある四面体全てに連鎖していく。
例外はあるものの基本的に四面体の数は枠の数だけしかなく余らせていいものはないので、身動きの取れない位置まで追い込まれたりしないよう四面体の位置と隣接関係を考慮しながら動かしていく必要がある。一つ二つならまだしもそれ以上の隣接関係が出れば整理は追いつかなくなっていくし、特に狭い盤面ではうっかりしていると簡単に詰まってしまう。
アンドゥ機能が備わっているためやり直しがしやすいのが救いだが、自分の考えた通りに四面体の集団を動かしていくのは存外に難しい。
しかしながら、このパズルに思ったほどの手応えは感じられなかった。理由は二つほど考えられる。
一つ目はルールの難しさと慣れの関係である。とっつきにくさを感じるのは最小単位が三角形の盤面に馴染みがないからであり、四面体同士の作用もそこまで種類が多いわけではないこともあって、慣れてしまうと普通の倉庫番と同様に動かし方はパターン化してしまえた。実際このパズルで一番難しかったのは動かし方に関する経験が全くなく、四面体同士の作用を叩き込むしかなかった序盤だった。
もう一つはレベルデザインの隙である。盤面は基本的に狭く作られているものの、必要最低限に狭いというわけではなくある程度の余白が残されている。確かに窮屈ではあるが、身動きが取れないほどの圧迫感というほどでもない。
盤面の余白が残されているという欠点は深刻で、作用が連鎖していくというルールの奥深さを薄めてしまっている。盤面のサイズが全体的に小さいせいか隣接関係を持った四面体のグループがそもそも少ないうえ、仮にそういったグループがあったとしても、余白があるがゆえに密集した四面体を一個ごとにばらけさせてから順に処理していくという安直な解法が通りやすくなってしまっている。
また、浮く四面体や正八面体のように動かし方に工夫を要求するギミックはいくつかあるものの、パズルをねじるギミックはあまりない印象だった。
うまく作れば歯応えのある問題ができそうではあるものの、現状は見た目と移動方式の奇抜さの一発芸で終わっているように見える。
ちなみにパズルの中身には関係のない話だが、このパズルの制作者といえば狂気のラブレターこと “YANKAI'S TRIANGLE” が印象に残っているのだが、それに比べて今作の演出はだいぶ控えめだったような気がする。
前後の文脈がなければただの四面体を回すゲームをサイケデリックに彩る理屈はまるで意味がわからないが、一応同じ三角にカテゴライズされるものであるにもかかわらず明確な繋がりを持たせなかったのは意外だった。