アンビバレンスな「自由」の空間 “Q”
同じ手段に縋りついてひたすら泥臭く足掻くという愚行も、このパズルにおいては正攻法である。
描いたもので干渉することを手段として、与えられた問いに答えていく物理演算パズル。
「コップからボールを出す」「モアイを指定の位置まで動かす」など、愉快な見た目や現実とは反した意外な難しさが特徴のユニークなパズルである。
キャッチコピーに「ゲームデザイナーから全人類への挑戦」と銘打っているだけあって、プレイヤーを突き放した設計ではあるのだが、必要な説明すらも省いて無駄に突き放しすぎてしまっている。
このパズルは、明示されていない条件に関してしきりに「察しろ」と要求してくる。物体の重さや摩擦係数などもとにかく動かさないことにはわからないし、クリア条件すら曖昧な問題も少なくない。何を知るにも学ぶにも、泥臭い試行を避けて通ることはできない。
最初から問題集がぶちまけられた状態で解けそうなところから挑めというスタイルなので、このパズルにおける物理演算の挙動を学ぶための導線なんてものもない。

具体的にどこまで伸ばせばいいのか?
答えは、限界近くまで!
解き方は自由であることを強調しているが、描いたものが消せずに邪魔になるというルールと、効率的な動かし方を考えると、手段はテンプレとしてある程度収束してしまうので、実はそこまで自由というわけでもない。
また、個別のレベルデザインも泥臭いものが多い。手段は簡単に思いつくが、そのための試行が実に面倒なタイプのものだ。
このゲームには問題それぞれにヒント動画が用意されているが、評判を見るに制作者の用意した模範解答もまた泥臭いものと思われるので、手数にものを言わせるか試行にものを言わせるか、あるいはその両方しかない。エレガントな解法を想定した問題なんてものには基本的には期待できない。
とはいえある程度慣れた上でプレイしてみると、面白い問題や良難問として映る問題も少なからず存在する。
問題数が多い関係で偶然を待つパズルとして早々に見切られても仕方ないが、全ての問題をひっくるめてその評価で片付けてしまうのは少し勿体ない。
最初からやるべきことが見えすぎてしまう問題は一部始終面倒だが、そうでない問題でクリアするための気づきを得た瞬間の気持ちよさは何物にも代えがたいものだ。

良難問の一つ。物を持ち上げる基本はてこの原理だが、位置が高くかつ描けるエリアが狭いこの問題、どう解決するべきか?
ちなみに下の土台は固定されていない。
実は以前に3DS版を全問クリアしていたのでそれを踏まえてのプレイだったが、3DS版の問題がいかに厳選されていたかがよくわかる結果となってしまった。
問題数が1000を超えている今、厳選問題集の再編が行われることを願っている。

3DS版で最後に解けた問題。

iOS版で最後に解けた問題。地獄のような悪問。
追記
Qに広告除去オプションが追加され、そのおまけとして付属問題が全部で180問追加された。
3DS版 (¥700) の5倍は出すつもりでいたが、単なる広告除去だけならば¥1,840だけでいいとは存外に安いと思った。
セール中だったこともあって、問題を買うつもりでAB両方のオプションを購入したが、Bのヒント動画の広告除去はオプションとしての価値はあるのだろうか?一度も使わなかった機能だが、ヒントなんて何度も見るものじゃなくないか?
解放条件の関係か実験的要素の多い問題セットだったが、導入されたギミックは悪問生成ギミックが多かったように感じた。特にVault-Bはヒント動画の広告除去とかいう謎オプションなんだから問題の質で釣るぐらいの気概見せなきゃダメだろうに……。
倍々ギミックはもう二度と使われないでほしい。あれは本当に酷かった。試行そのものを制限するくせオブジェクトの繊細な制御を要求するという使われ方も最悪だが、ゲームそのものの処理すらも鈍らせるのはまずいだろう。
Q2はQとは打って変わって、自販機の下の小銭を取るゲームと化していた。こう感じた要因として、青エリアの制限が強すぎるというのが大きいだろう。
それにしてもたった一つ、描いたものを掴めるってルールを足しただけでパズルの性質が全くの別物に変わるんだから面白い。
プレイヤーと製作者、どちらにとってのétudeだったのかはわからないが、仮にQ2が出るにしても、気づきを与えるパズルであることは変わらないでいてほしい。
追記
今日に至るまでに新しい問題セットがさらに8個追加され、総問題数は1500となった。せっかくなのでここにクリア図を残す。ここまで来ると壮観である。
各問にかけたマヌケの手数も記録されているが、元の画像のサイズは8004×10500と非常に大きいので注意。
契約の関係か、ギブミーチョコレーことCOLLABO 2がプレイできなくなってしまったため、同じクリア図を再現することは現在不可能となってしまった。
はたしてこの図がさらに大きくなる日は訪れるのだろうか?
追記
Switch向けに発売された “Q REMASTERED” を全問クリアしたのでそれについて追記。
発売が告知された時は遂に念願の厳選問題集の再編が行われたかとマヌケは歓喜したが、内容は発売日時点で本家で出題されているコラボ問題集を除く全ての問題と最凶難易度を謳う新問題集 “HELL” の収録と、Remasteredの名の通り実質的にはおまけ付きの移植作だった。
HELLのためだけにプレイしてしまうと残りの問題を捌く気力がはたして湧くだろうかと考え、まずはHELLを除く全ての問題を解いたが、3DS版からシリーズに触れた身として、そして本家の問題をコラボ問題集も含め全て解いた身として、やはり玉石混交の問題を1000問以上解きなおすのはしんどかった。良問はともかく、作業に等しい試行が要求される面倒な問題を二度もやるのは、慣れたことだとしてもかなり堪える。
コラボ問題集の全削除も権利関係や既にコラボ先が消滅しているものもあることを考えればやむを得ないとは思うが、3DS版にはコラボ問題の収録もあったことを考えると、随分と仕事が雑になってしまったものだと嘆かずにはいられない。今やプレイ不可能となってしまったCOLLABO 2の問題すらも画像やオブジェクトの差し替えといった権利問題に配慮したアレンジを加えた問題として出ていたのに。
問題文すら何の改訂も入っていないので、中にはそれが出題されるに至った経緯の文脈が失われた問題も存在する。
広告削除オプションのおまけであるVAULT問題集が収録されているのは妥当だと思ったが、Q2 étudeも収録されていたのは意外だった。
ただこれを収録したことで掴む動作に操作を割り当てる必要が出てきた結果、本来なら使えたかもしれないボタンをいくつか潰されていると考えると、無理に収録してほしくはなかった。QとQ2は本質的にも全く違うパズルなわけだし。
右手は描画、左手はリセットとポジションが決まっていた本家に対して、リセットも右手が対応しなければならなかったのは地味ながらもストレスの溜まった点である (タッチでのリセットの配置は本家と同じ左下だが、デバイスの違いで指が届かないので全く使わなかった)。そういう点では左利きはやりやすい配置になっているのではないだろうか?
総じて、折角の心機一転の機会を乱雑に消費してしまったなあと残念な思いをすることの多い移植だった。なまじ3DS版が良問の選定やハードの特性を生かしたオリジナル問題の作成という熱意に溢れた作品で、しかもそれが私にとってのQシリーズの入り口だったことも大いに影響しているだろう。
ただし、物理演算は今まで遊んだ3作の中では恐らく最も厳密で、同じ問題をプレイするとしたら最も難しくなるのはこのSwitch版だと思われる。すり抜けやめり込みといった想定外の挙動を狙いにくくなっている他、全体的に「重い」と感じた。もうひと押しするのに労力がいるように感じるというか……解答に差し支えるほどではないが、あと一歩届かない歯痒さを感じる回数は体感を超えて明らかに多かった。ちなみに一番物理演算が緩いのは3DS版。
そして、今作の目玉とも言える自称最凶難易度の新問題集HELLについての感想だが、ずいぶんと両極端な問題集だった。
無難に解けてしまう場違いな問題を除いてしまえば、HELLにおける難易度の上げ方は2種類しかない。解決策の糸口すらも見当がつかない問題と、方法は簡単に思いつくがうまくいくまでひたすら試行という名の作業が求められる問題のどちらかである。
HELLにおける前者の問題は揃って良問だったが、手法が青エリアによる試行の制限で偏っているのが気になった。自由を縛ることでしか難問を作れないというのが発想は自由というこのパズルの謳い文句と反しているようで、良問といえど気に食わない。
そして後者だがこちらはかなり厄介である。HELLには突出して難しい問題が2問存在し、そのどちらもがこのパターンで、そしてそのどちらもが今までに求められなかったものを求めてくる質の悪い問題だった。
今までにも匙加減を間違えたかのような凶悪な問題はいくつか存在していたが、それでも試行自体は静的なものでよく、奇跡を保護しに急く必要はなかった。しかしながら、HELLにおけるそれらは目当ての動作を試すためにまず偶然を求め、その結果の奇跡に対してすらもすばやく反応し的確に描画しなければそもそも試行の土台にすら立てない。
偶然をものにするために動的な反射神経と正確性を求めるのなら、それはもうパズルではなくもはやただのアクションなのではないだろうか?今までもボールの制御などで多少なりともアクション要素が求められることはあったが、今回は流石に度が過ぎるように思った。
こういうことをさせるのなら、せめてBGMはアップテンポのノリノリのものであってほしかった……SENARY 1-17という弩級の悪問で試行がつらくなかったのはBGMのおかげという側面が少なからずある。

HELLで最後に解けた問題だが、所要時間はHELL 20のほうがはるかに長い。
ちなみに、今回はHELLを除いて少なくとも二度目だったこともあり、何の縛りもなく解いては面白くないだろうと思い、なるべく一桁手を目指して解いてみた。
仕様上不可能な問題を除いても結局達成できなかった問題がいくつか残ってしまったあたり、中途半端になるくらいならやらなければよかったと思ってしまうのだが、せっかくなので今回も手数を確認できる形のクリア図を残しておく。例によってサイズが非常に大きいので開く際は注意。
総集編とするには中途半端な出来だったのでシリーズが続くことを願うが、HELLに焦点を当てたPVで「最後の挑戦」というキャッチフレーズを使っているのが気がかりなところ。
シリーズを締めるならこんな寄せ集めのいい加減な移植ではなく、問題集の再分類・再編とコラボ問題のアレンジ、各種オリジナル問題の再録をして整理をつけてほしいのだがはたして。
追記
2023年5月1日、“Q REMASTERED” がSteamにて配信された。購入はしていないが、関連したやり込み等をSwitch版で行ったので、それも兼ねた追記。
Q2 étudeが削除された代わりに、Steam版では既存の問題20問を用いたスコアアタック「IQ診断」なる新モードが追加されている。プラットフォームごとにできることとできないことをちまちま分断していくやり口は気に食わないが、Q2に限っては所詮別物でしかもétudeなので別になくてもよかった。
物理演算等の仕様はおそらくSwitch版と全く同じだが、マヌケが確認した限りではPRIMARY 1-9 (ボールを5つ以上お皿に入れろ) の問題文に「※ぐりぐりしつこく描くほど重くなる」という追記が入っていることを確認した。今になってようやくこの仕様について言及が入ったかと呆れ果てる。
この仕様についてマヌケが知ったのは本家全問クリア後である。稀代の難問SENARY 1-17を他の人はどう解いたのだろう?という疑問から別解を漁っているうちに、小さなボールが下まで一気に沈んでいく様を見て、虚を突かれたような思いをしながら自分でも試して理解したのがきっかけである。裏を返せば、別にこれを知らなくても一応解けはするということでもあるのだけど。
VTuberによる配信をきっかけに再ブレイクしたこともあり、トレーラーにまで侵食するほどに配信との親和性をアピールしているが、マヌケとしては全くもって配信には向かないゲームであると思っている。
その理由は色々と存在する。問題が難易度順に並んでいないどころか、テクニック学習の誘導すらないという導線の悪さがあるため、慣れた人には簡単な問題でも、何も知らない状態でどうすればいいのか放り出されては、たとえそれが最序盤だとしても長時間詰まってしまうだろう。また、問題ごとの物理的特性に関する説明不足があるため、軽い・重い、跳ねる・跳ねない、滑る・滑らない等、視聴者には伝わりにくい情報がある。さらに、このやり方で解けると確信してしまうと、以降の試行はただの作業風景でしかなくなる。
物理演算パズルによほど自信のあるプレイヤーでもない限り、編集済みの実況プレイ動画としてならばまだしも、ライブ配信でやるべきではないだろう。視聴者はこうすればいいのにというじれったい思いを、プレイヤーは自分の考えが正しいのか否かもわからない泥沼で足止めさせられ、変わり映えのしない絵面を延々と垂れ流さざるを得なくなる。
そしてなにより、この作品はキャッチコピーに嘘偽りない高難易度なので、生半可な覚悟で挑むべきではない。総問題数の1割にも満たない100問クリアの実績の解除率が1割を切っている現実は伊達ではないのだ。
作品とは無関係の第三者がでかでかと映り込んでワーワー騒いでる絵面も最悪だが、いきなり流れるのが物理演算の悪用による解法ってあたりにパズルとしてのQというゲームの良さを説明する気がなくて幻滅する。
今までQシリーズに金払ってきたのはこいつらのスパチャ代を工面するためじゃないんだけどなあ……。
さて追記の本題だが、Steamには実績機能があり、この作品にも50個以上収録されている。
全問クリアした身として注目すべきなのは、1手クリアを300問以上達成する「ラプラスの悪魔」、VAULT-A1-1においてヒーローを500m以上飛ばす「ハイパージャンプ」、PRIMARY 1の全ての問題を1手でクリアする「20手」だろう。
Steam版発売日時点でマヌケがSwitch版で達成していたのは「ラプラスの悪魔」だけだった (463問: 上記クリア図参照) が、惰性の付き合いとはいえ遠くまで来た身として、残り二つの実績も頑張って事実上解除した。

「ハイパージャンプ」条件達成。

「20手」条件達成。
HELL除くREMASTEREDの全問クリアにかかった時間と同程度の時間がかかったがノーヒントで達成した。ただ、そこまでこだわる価値はなかったように思う。
これらの実績はつまり、この先仕様への理解を求める難問も出すつもりだということなのか。あまり喜ばしくない兆候だが……。
とはいえ、制作者も大好きであろう1手クリアが300問で済んでいるのはだいぶ甘いが。
何を考えて実績を設定したのか、基準がさっぱりわからない。
ちなみに、手詰まりの気晴らしに1手クリアに挑戦した結果、Switchのクリア図からさらに増えて600問で1手クリアを達成した。1手クリアの専門からすればまだまだ小さい数字だが、ラプラスの悪魔にさらに上位の実績ができるとしても、これでしばらくは問題ないだろう。
1手クリアをありがたがる風潮は好きではないので、できれば来ないことを願っている。
マヌケの1手クリアマップ
Q2 étudeを除く全1220問から1手クリアできたものを抜粋。例によって非常に大きな画像なので開く際は注意。
キリのいい数字だからと600で止めたので、このマップはいわばマヌケが1手クリアを狙いやすかった厳選問題集とも言える。
追記
Qにかけた9周年記念として、2月末にみんなのQ25~27を追加するアップデートが、そして4月末にみんなのQ28、みんなのダルマ、みんなのHELLを追加するアップデートが行われた。シリーズを祝っている割に本家へのアップデートはなしというあたりに意地汚さが窺えて嫌になるが、それはさておき、新しく追加された計6個の問題集、全120問をクリアしたので、それらに関する追記。
時の流れか、あるいは再ブレイクによる問題選定側の嗜好の変化か、泥臭さがものを言う問題が多いように感じられた。見た目通りの困難を地道に解決していくしかない問題ばかりでいい加減うんざりしてくる。
HELLを出して前提が変化したからだろうか、幸運を掴むための瞬発力が試されるという動的に解くべき問題も目立つ。
解決すべき事柄の整理や発想の転換などでクレバーに解くことのできる良問はほとんどない。
みんなのHELLに関しては第一印象では何度も頭を抱えたものの、方針が見えると案外楽な問題が多かった。ただしその楽というのは解けるという確信が簡単に持てるというだけにすぎないので、実際に解けるまでに面倒な試行が必要になる問題は少なくなく、中には動的な反応が必要な問題も存在している。
また、無印HELLから連なる改題がいくつがあるが、解法を同じくしているので何のために分けたのかわからなかった。見た目で脅迫しても壁の構造が変化しなければ意味がないと思うのだが……。

新問における一番の良問。HELLからまさかの推薦。
動的に解くべき問題が難問として当たり前になるのは違うと思うのだが、嘆けど次はないだろうか。
クリア図は新問の分だけを残しておく。
