裏目に出たおとぎ話 “Roterra 3 - A Sovereign Twist”
道は繋がれど話は繋がらない、おとぎ話のような何か。
彼らはなぜそこにいるのか?彼らはなぜそうしているのか?
それぞれの面に異なる地面が描かれた正六面体のブロックが連なる盤面で、ブロックを回し道を繋ぎ主人公をゴールまで導くパズル “Roterra” のシリーズ3作目。
前々作は新女王の戴冠までの道程を、前作はその女王によって王位を追われた先王が王城に帰還するまでの逃亡記を描いていたが、今作では両者が同格の主人公となっている。真に王権をあずかるのにふさわしいのはどちらかと、その資質を問う儀式を描いた物語とでも言うべきか。
主人公はステージごとに変わるだけでなく、チェックポイントごとに入れ替わっていくこともある。
前作がそうであったように、今作もまたパズルのルールやギミックに大きな変化はない。
ただし、難易度は前作から大幅に下がっていて、前々作からやや難化した程度といったところか。前作はなまじ “Extreme” を冠していただけに、それ以上に難しくすることは憚られたというのもあるだろう。
レベルデザインは見た目の上で近い場所を枠組ごと遠ざけるという作りが多い。接続先や回転の可否を変えるオンオフの切り替えができるスイッチも当然続投しているが、それらによるブロックの入れ替えパズルといった趣向は薄く、使い捨てのボタンによる迷路のような迷わせ方が目立つ。初代である前々作もそうだった印象なので原点回帰なのだろうか。
私が理想としていたのはいたずらな盤面のサイズの拡大に依存しない難化、例えば複数のスイッチによるブロックの多重の入れ替えやスライドなどで、残念ながらそういった複雑なねじれはほとんどなかった。だが盤面のサイズは視界に収まる適切な大きさになっていて、前作のように広大すぎる盤面を前に把握に困るようなことはなくなり、それでいて迷路のように迷う体験はできるようになっている。
しかしながら、前々作に寄せすぎたためだろうか、今作もそれと全く同じ欠点を抱えてしまっている。枠組がねじれているのは本当にただの見た目の上だけで、実際はそれらが道順で完全に整列してしまっているというものだ。
目の前の行けそうなのに行けない場所を前にして歯噛みしても、とりあえず行けそうな別の場所を探しているうちに意識的に目指すまでもなく勝手に辿り着けてしまい、思考の上で迷うことが全くない。
これだけならばExtremeの冒険を経て良くも悪くも原点回帰したという話の範疇に収まるが、残念なことに今作は今までのシリーズ作品にはなかった欠点が三つあり、シリーズ中最低の出来という印象を残すに至っている。
一つ目は視認性の劣化である。
回転可能であることを示す四隅の印が地形の飾りの中に溶けてしまっていたり、そもそも道路の接続先がわかりにくい地形があったりなど、外面の飾りをこだわった悪影響が表れてしまっている。
また、今作は高さの違いを利用した盤面が多いためか、高さが合っているのかどうかがわかりにくいという思いをすることがしばしばあった。
曲面を利用して縦横無尽に駆け回る2.5Dである以上、絶対の見やすい角度がないというそもそもの難しさはあるのだが、地形の視認性の劣化と前々作のレベルデザインの欠陥をそのまま持ち越してしまった事実を鑑みると、最大限の努力の果てのベターではなくただの洗練の放棄として映ってしまう。
清流のほとり、緑の深い森林、色鮮やかな花畑と今作の背景はどこを切り取っても美しいが、パズルを解く分にはストレスしかなかった。
二つ目はレベルデザインに明確な無駄が存在することである。ダミーですらないというこれらは今までにはなかったものだ。
通る必要のないブロックは今までにも何度もあったが、それらは全て部分的なものだった。だが今作では枠組だけではなく道路ですら整列してしまっていることが少なくなく、まるごと存在意義のない廃道の一塊をあちこちで形成している。
さらには、道路だけではなくボタンすらもクリアに関与しないものがある始末である。今までは盤面上のボタンは例外なく全てがクリアのために必要な存在だったため、もしかするとクリアを遠ざけるボタンでも混ぜたかったのかもしれないが、それらは踏まないまま残されたためトラップにすらなっていない。
今作のレベルデザインがどのような設計思想で作られたにしろ、これらの無駄は全体的に練り込み不足であることを示しているように見える。
三つ目は物語の盛り上がりに欠けることである。
今作の物語は単体で完結せず、次回作に続くという脚本になっているが、この欠点は物語を分割したから発生したものではない。今作だけで完結する物語として捉えてもストーリーが不明瞭で、操作キャラクターとのリンクが薄くパズルのプレイ体験にも支障をきたしてしまっていた。
かつて王位を争った二人がどちらとも操作可能と、序盤はそれだけで勝手に盛り上がれたのだが、ただそれだけの事実だけで熱が続くはずもなかった。
前作が先王の帰還で終わった通り、王城で対面したであろう女王と先王には何かしらの衝突があったはずだが、その内容は描かれないまま、気づけば二人は城の外のとある森にそれぞれ勝手に立っている。真の王を決めようとしていることはわかるが、彼らがなぜそこにいるのかがわからない。今までは新章が始まる際に主人公の置かれた状況を示す扉絵があり物語の理解の一助となっていたが、今作にはそれがないため余計に彼らの目的がわからない。
彼らが往く場所は前述の通り美しい場所ばかりであり、時に王城のような立派な建造物を前にすることもあるが、それらは全てがただの通過点でしかない。ゴールはいつでも無機質なワープゲートか何もない行き止まりのどちらかであり、最後のステージですら何の変哲もない丘の上のワープゲートという有様である。
道なりに進んでいただけで大した思い入れもないはずなのに、両者を操作できることに意外なほどに感慨深さを覚えたのは、パズルで迷った時間に彼らの王位にまつわる苦難の物語が知らず知らずのうちに実感として乗っていたからだろう。
だが、今作の苦悩も脈絡もない旅路はまるで王族の観光ツアーであり、せっかく積み重ねてきたそれらの思い入れも台無しである。
ネタバレ項目: 王冠の行方
プレイ中はもしかしてプレイヤーが王を選定するのか、なんて妄想甚だしいアホみたいな勘違いをしたりもしたものだが、もちろんそんなことはなかった。だが真実は想像以上にくだらなかった。
確かに家来でも何でもない色違いの旅人がそれぞれ女王と先王の手助けをしたというのはおかしな話であり、彼が王冠を奪う力を持っていたのも納得ではあるのだが、今作のストーリーの欠点たる脈絡のなさを象徴するような結末には呆然とするしかなかった。敵対していたはずの女王と先王が困惑したように顔を見合わせたあの反応が全てだった。
一体何のための冒険だったのかもわからず、目的地もわからないまま、オチをよくわからない奴に持っていかれ、どうして気持ちよく終われるものか。
今作が次回作への序章だからだとしても、それが諸々のつまらなさの言い訳になるわけでもない。
私はパズルの奴隷である。ただのストーリーの確認のためだけに続きをプレイしようという気持ちになれるほど、私はできた奴隷ではない。