錆びた車輪の空回り “These Robotic Hearts of Mine”
自称 “narrative-driven puzzle game”。
作品とプレイ体験にそこまでの結びつきがあるようには思えないが、思考の膠着が逃れようのない苦痛に結びつけば思わず金属の心が欲しくなるかもしれない。
周期4の回転式スライドパズル。
歯車を操作するとその周囲に存在するハートの位置および向きを90°時計回りに変える。全てのハートの向きを正しい向きで揃えることでクリアとなる。
このパズルに他のルールやギミックの追加などは一切ない。このゲームは細切れにされたおとぎ話の文章と共に、たった36問の無骨なパズルがあるだけである。チュートリアルやすぐに解けてしまうイベント扱いの問題を除けばさらに少ない。
全体が従属して動くタイプのスライドパズルでありながら、全てのハートに区別はなくクリア時の位置に指定もなく、さらには空きマスが多く余白が広いため簡単にクリアできてしまう。
歯車がそれぞれどの範囲を回すのかが不明瞭ではあるが、アンドゥだけでなくリドゥまで完備されているため遊びやすく、このパズルに詰まる要素は一切存在しない。……ただ1点を除いては。
このパズル唯一にして最大の落とし穴、それは手数である。ただクリアするだけならとても簡単なのに、設定された最小手数に挑もうとするとこのパズルは急激に難しくなる。
たった数個の回転軸、多くても十数手という少ない手数にもかかわらず、最小手に至る道は非常に遠く、非常にか細い。綺麗な形の盤面だからといって、手数の減らし方もまた綺麗とは限らない。あと1手が足りない、近くて遠い最小手数への挑戦は、ハートの向きと回転方向が固定されているがゆえに生まれる非対称の落とし穴である。
ようやく辿り着く最小手数の手順はどれも急がば回れの体現である。1手を縮める回り道を見つけるのは至難の業であり、直感的に解くだけでは辿り着けない。
どれくらい大変かというと、たったの30問ほどにもかかわらず、全問最小手数クリアを達成するのに7時間もかかったほどである。このパズルの密度がいかに高いかがわかるだろう。
問題は等しく難しいわけではなく実際は落差が激しく、またこのパズルの歯応えが手数に依存し過ぎているのも確かである。
だが、このパズルの無機的な冷たさと解けない苦しみはそれゆえに覚えるところもあるだろう。それはまるで作中で語られるおとぎ話のようであり、感じる息苦しさは嘘偽りなく本物である。
捻りのないルール、少ない問題数と一見スカスカなこのゲームには、巧い手数の詰め方を問うミニマルながらもエレガントなパズルが詰まっていた。